鹿島美術研究 年報第9号
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3)海獣の腹の中でヨナは主に祈り(ヨナ書2章3-10節),主は海獣に命じてヨナを1 -9節)。画枠内の左下部を使った大きな第4場面はこの様子を描いている。ヨナは5)最後に,ニネベの町の左上のスペースに,とうごまの下で安らぐヨナ(ヨナ書42)主が激しい暴風を海に吹きつけたため,ヨナの乗った船は難波しそうになり,恐れた水夫達はヨナをかかえて海に投げ込んだ(ヨナ書1章4-15節)。この様子は画枠内の右上部に描かれている。ここにはヨナ書2章1節においてヨナを呑み込んだと語られる海獣も描かれているか,海に投げ込まれるヨナと洵獣とによって1つの場面を構成する方法は,初期キリスト教時代において既に確立した伝統的なものである。吐き出させた(ヨナ書2章11節)。第3場面はこの吐き出しの様子を描いている。海獣の口から1廿てきたヨナは天を仰ぎみて祈っており,ヨ考應していると考えられる。海岸線は海獣のほうに大きくせり出し,ヨナは聖書の記述通りに陸地に吐き出されようとしている。その陸地には次の情景が展開し,説話的な連続性がよ〈保たれた画面構成になっている。4)再び下った主の命に今度は従って,ヨナはニネベの町へ行き,主の言葉を伝え,これを聞いたニネベの人々は王や大臣から身分の低い者まで悔い改めた(ヨナ書3圃枠内下部の中央に大きく描かれ,ニネベの人々は町の建物の中から彼を見ている。大臣達を従えた王は服の胸を割ってI嘆いている。6節)が描かれている。ヨナの身体はほとんど縦になっているが,これはスペースの不足によるものであり,彼の姿勢はあくまで横臥の姿勢である。「パリの510番」のファクシミリ(H. Omont, 1929年)では,このヨナはヨッパの町と合わせて1つの図像を構成し,ヨッパの町の前で眠るヨナを表現していると解釈されている。しかしはそのような記述はなく,また,このヨナの頭上にはとうごまが描かれており,初期キリスト教美術の諸作例を考慮すれば図像は明らかである。以上のように,「パリの510番」では,ほぼ正方形の圃枠の中で,5つの図像か,画枠内の左上部から右回りに連続的に展開してヨナの図像サイクルを構成している。ョナの物語を描いた9祉紀の他の作例としては,まず,ダマスカスのヨハネスによるとされる詞華集(パリ,国立図書館,Cod.gr. 923)の中の挿絵がある。Fol.29\'にはヨナ書1章12節からの引用に対応して,海に投げ込まれるヨナと彼を呑み込もうとする海獣が描かれている。Fol.15門こはヨナ書3章4-5節からの引用に対応して,ニネベで主の言葉を伝えるヨナと彼の言葉を聞く町の人々が描かれ,加えてそのすぐ下2章3-10節のヨナの祈りを-309--

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