③ スクロヴェーニ礼拝堂(パドヴァ)におけるジョットの壁画構想とフレスコ技法I スクロヴェーニ礼拝堂壁画の技法について[ 1 Jジョルナータ(周辺の装飾フリーズとの有機的結合としての問題点)について研究者:金沢美術工芸大学助教授上田恒夫(平成2年度助成)富山大学教育学部教授金沢大学教育学部助教授宮下孝晴これまでスクロヴェーニ礼拝堂壁画の物語場面については,全画面を網羅するものではないが,ジョルナータの分割を提示した研究報告もあった。しかし,それとても各画面の枠内での分割にとどまっているため,礼拝堂壁画全体の制作システムを考慮する資料としては不完全というほかなく,あらためて全壁面にわたる調査の必要性が生じたのである。さらに,ジョルナータ区分を正確に見出すことは,それほど容易なことではなく,イントーナコ(上塗り漆喰)の塗りむら,ビアンコ・サン・ジョヴァンニを用いたりした厚塗りのタッチ(pennellata),技法的な引っ掻き(graffito),壁面に生じた亀裂などとの区別がつかないことも多いし,完璧にジョルナータが継がれているために何らの痕跡も見出せないこともある。ジョルナータの継目を堂内の全壁面にわたって確認するためには,<斜光線>を当てて壁面の凹凸を浮き上がらせる方法が,(少なくとも,現地での実地調査の許可のおりる範囲内では)最良の方法であった。ごく部分的に不明瞭なところに関しては,周囲のジョルナータ分割の線を延長し,さらにジオットーの常套的な分割法とも照合して類推した。なお,<斜光線>の光源としては,壁面に熱による損傷を与えないよう配慮し,グラスファイバーを利用した高輝度で冷光の照明光源装置を用いた。フレスコ画の壁面にく斜光線>を当てて観察することによって,これまでのフラットな光線による観察や写真図版からでは,思いもよらなかった技法的な問題点も見えてきた。次にそうして浮かび上がったいくつかの点について略述してみたい。枠組された絵を取り囲む装飾は,絵に近い側から緑色と赤茶色の帯があり,その外側に二個の菱形を含む白地の装飾フリーズで構成されている。ここまでは右壁と左壁の中段と下段に共通している。ただし,窓のない左壁の水平方向には,これ以外に菱形を含むフリーズに挟まれて,クローバー型を含む幅広のフリーズがある。全体的に上段のフリーズは中,下段とはまったく異なったタイプだが,今回は調査していない。丹羽洋介312-
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