鹿島美術研究 年報第9号
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② 現代絵画の修復2.現代絵画の特性と修復の基本姿勢研究者:(悧絵画保存研究所東定理1.はじめに第一次世界大戦に起こった前衛芸術運動は過去の芸術の否定に始まったが,それを機にさまざまな形態の現代絵画が誕生するところとなった。素材においては,従来の油絵具に加えて,まずアクリル絵具や蛍光塗料などの色材,合成マチェール材の導入があった。支持体としては,麻や綿などの天然繊維を用いたキャンヴァス以外に,ポリエステルから作られた合成繊維や合成紙が取入れられた。又,メソナイトやベニャ板に見られるような合板が安価で手に入り易いものとして,広く使われるようになった。技法上では,筆の使用のみならず,スプレー機器も用いられた。こうした新傾向の絵画は,今後21世紀に向けますます多様化の道をたどると予想されるが,修復においても新しい技法の確立が求められている。今回,アメリカ国内の美術館にある修復室を訪問するとともに,1991年秋には,グッゲンハイム美術館における講習会に参加し現代絵画に対する今までの修復技術の例とその限界を見聞した。又,1991年8月から1992年4月まで,ニューヨーク大学のコンサベーションセンターで行われた修復のための講座を聴講し,技法材料及び,分析の基礎知識を学ぶことができた。一方,1991年6月より約1年間,ニューヨーク・コンサベーション・アソシェーツにおいて実際に現代絵画の修復に携わった。次は,今回の研修中に現代絵画に見た劣化症状とその修復及び,実際の作業に立会いながら学んだ最新の修復技術の報告である。現代絵画は,自由な創造をスローガンとしている故,画家個人の発想によりさまざまな形態を呈するものである。例えば,近年においては,画面に艶を生じさせることを嫌い,ニスを塗布されていないものが増えている。支持体においても,従来の古典技法ならば,絵具屈との絶縁体として目止めや地塗りが行われたが,現代絵画では布地に直接絵画をたらし込み,描画するなど支持体のテクスチュアをも表現のひとつとして効果的に取入れられているものがある。又,従来のキャンヴァスに紙や布片などをコラージュしたもの,あるいは,異なった素材を混合し構成したものなどがあり,古典的な油彩画技法の領域を越えて,いろいろな試みがなされている。そのため修復340

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