鹿島美術研究 年報第9号
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⑦ 戦前期の日本の前衛美術逼動の思想⑧ 中国所在の明代中期狂草書法の調査研究1991年度の美術史学会全国大会(於岡山大学)において,私は『祝允明の狂草書法ーシュールレアリスムと抽象美術を中心として一研究者:名古屋市美術館学芸員山田シュルレアリスムと抽象美術―20世紀の美術思潮を先導したこのふたつの前衛芸術の戦前期の日本における独自な展開(受容・消化・創造)の過程に関する研究は,現代美術(戦後美術)の潮流を検討する上でも,また現代(戦後)という時代を認識する上でも大きな意義がある。不幸な戦争と敗戦を分水嶺として日本の20世紀はふたつにわかたれているが,戦前から戦後へ継承されたものとされなかったものを明らかにすることは重要である。しかし,残念なことに,これまではごく少数の限られた研究者によって,概略的あるいは個別的な研究や展覧会が行われてきただけである。戦争は若い芸術家たちを戦場に奪い,また空襲・爆撃によって美術作品も文献資料も焼き尽くして,現在では生存している芸術家も残された作品・資料も少ない。こうした悪条件も重なって,基礎的な文献資料の整備すら充分に行われていないのが実情である。このような現状において,戦前期の日本の前衛美術運動を推進した思想(芸術観)を総合的に考察し,その成果を文献資料集として編纂することは,今後の研究の進展を保証する基盤を確立する意味からも重要である。また近年,ヨーロッパやアメリカにおいて,日本の文化・芸術の独自性と可能性に対する関心が高まっているなかで,戦前期の日本の前衛美術の研究は期待されているテーマのひとつと確信する。研究者:帝塚山学院大学非常勤講師池坊短期大学非常勤講師下野健児について』という題目で発表を行い,祝允明の狂草の紙面構成を王義之の伝統を受け継ぐ,文徴明の草書と比較した。そこでは,文徴明の文字,行を規則的に積み重ねた紙面構成に対して,祝允明では,文字,行を有機的にからみあった一つのかたまりとしてとらえる構成がなされていることを指摘した。しかし,話題を紙面構成に限定し諭-362-

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