鹿島美術研究 年報第9号
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⑨ 鎌倉仏教の祖師たために,書を形成する他の重要な要素に関しては,言及することができなかった。明代中期の狂草を研究するにあたって,祝允明に関しては,日本で入手可能な資料・写真等について,ほぼ収集整理ができており,他の作家についても資料を集めつつある段階である。しかしなから,該当作品の多くか,中国中華民国などに蔵されており,今日までまとまって中国に行く機会もなく,実作品にあたって調査したものは二,三点にみたないのが現状である。絵画でいうところの画面構成にあたる紙面の構成に関しては,写真資料で看取することが可能である。しかし,書の重要な要素である筆の運び,勢い,墨の潤渇,濃淡や,そこから生まれるリズムなどは,写真資料から読み取ることは困難である。明の狂草の特質を正しく理解するためには,当然のことなから,実作品を調査し,査料や印刷物を通しての観察では確認できなかった点,疑問点を確認することが不可欠である。今回の調査は,学会発表での紙而構成に関する私の指摘の確認とともに,分析にあたって不足していた上述の観点を補うという意味を持つものである。祝允明以降の書の流れを研究する上で,重要な滋義を持つものと考える。ーその遺品の基礎的調査研究一研究者:奈良国立博物館学芸課主任研究官西山すでに記したように,鎌倉仏教史の理解は,旧仏教と新仏教をあたかも平行線に例えるように対比的に考察してきた従前の研究から,教団史や寺院史を視野に入れることによってより複雑な歴史の懐が明らかにされつつある。鎌倉時代の仏教美術史の分野においても,今後の研究ではそうした宗教史の成果に立脚して,顕密仏教と新興の勢力とのそれぞれの特色ある立場を理解しながら,あらためてその認識の再構築がなされる必要があろう。私達は,ここでは宗教史および書跡を専攻する研究代表者を中心に,絵画史,染織史を専攻する研究者が共同して,鎌倉時代の祖師とそれを継承する教団等が生産しあるいは受容した作品を調査研究し,それを通じて新たな机師像を再構築しようとする作業を始めようと考える。宗教史の分野では,すでにきわめて分析的な鎌倉仏教史の-363

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