⑮ 日本近代風景画⑮ J. A. Dアングルとダヴィット派の芸術的関係の研究ー岡田三郎助と藤島武ニー研究者:佐賀県立美術館学芸員(学芸課企画普及係長)松本誠一本研究は,日本近代風景画のある形式を「典型」とし,画家の個人的資質との対比において考察しようとするものである。これまで日本近代風景画は,抒情的あるいは外光派的な風景画観の延長上で考えられてきた。それは浅井忠(1856■1907)の作品にみられるように,風景画に「ひとつの気分」が表現されていることを基本とし,そこには「時(とき)」と「所(ところ)」の一小部分があらわされていた。こうした風景画は,明治20年代以降の新帰朝者の影聾のもとにさらに強化されたように思われる。しかし日本の近代洋画家が受け入れ,確立しようとしたものは,そのような,様式的にみてささやかなものではなかっであろうというのが,わたしの考えである。他方,岡田三郎助の風景画において「典型」への志向が端的にみとめられる。しかしかれが意図したものが,今日十分批判の対象にされているとは言いがたい。風景画における「典型」への志向は,形式的な画面構成という点で,当時洋画家たちによって問題とされていた構想画(あるいは理想画)の理念と重なっていたことは重要であり,本研究ではこのことについても考えたい。さらに本研究は,この近代風景画にあらわれた「典型」への志向を,岡田三郎助とかれの身近な画家を中心にみようとするものである。そしてこのことはとくに,同じ西洋画科の指溝者であった藤島武二の風景画と比較することでより本研究の内容が鮮明となるであろう。研究者:東北大学大学院文学研究科阿部成樹アングルはその実質的な画風形成を,ダヴィッドのアトリエに入門した1797年以降始めているが,これまで師ダヴィッドとの関係すらあまり論じられておらず,ましてアトリエでの同僚たちとの関係は断片的に紹介されるのみであった。しかし,肖像画・歴史画・裸体画など各ジャンルにおいて,アングルの初期作品(ここでは1824年以前-368
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