鹿島美術研究 年報第9号
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⑰ 18世紀フランス版画に関する研究18世紀は都市文化の拡大とともに,都市生活者を中心に,視覚文化の急速な大衆化の作品と解する)が,ダヴィッドの色彩設計,プリミティフ派のアルカイスム,リヨン派のトウルバドゥール様式,ジロデの前ロマン主義,ジェラールの明暗法など,ダヴィッド派内の画家・グループの様式を反映していることか感じられる。したがって,アングルがダヴィッド派内の様々な様式的傾向を消化・吸収していった過程を,作品比較と共に書簡等の一次文献賽料を活用して総合的かつ具体的に捉えることは,そのままアングルの様式形成の実像を明らかにすることにつながるであろう。特に,これまでアングルの初期画業については,古代の彫刻作品やその版画図版との関連を中心に,図像学的検討に傾いてきたきらいがあるだけに,同時代画家との様式的影縛関係の考察は従前の研究の欠を補うものと考えられる。さらに,ダヴィッド派に関する一次賽料は,文献(書筒,手稿,公文書等),視覚賢料(特に素描類)のかなりの部分か,パリその他フランス各地の美術館,図書館,公文書館等に未紹介のまま保存されている。例えばアングル災術館所蔵のアングルの索描約4,000点の大部分は未紹介である。アングルとダヴィッド派の関係の研究は,これら質重な未公開賽料を紹介する機会ともなると考える。研究者:お茶の水女子大学文教育学部哲学科教務補佐伊藤己令が進展する時代である。これまで一部の階級にのみ奉仕してきた視党像は,この新しい鑑買者にむけて大拭に解放される。この過程で,従米までの視党的な伝達のシステムは変化を余儀なくされる。本研究は,要約にも記したとおり,この時期に拡大した大衆を相手にした,視覚像の'情報化の過程を解明することが目的である。このことは,おのずから,19世紀の本格的なマス・コミュニケーションを前提に行われるべきで,その前世期に,視覚像による情報伝達のシステムがどのように再編されて行ったかを考察することは,近代視党文化の発生を考えるうえで価値がある。また,18世紀の視覚文化を,19世紀の大鼠伝達の視党文化につなげる試みは,いまだ未開拓の分野であり,今までにない新しい視点が成果として期待できる。さらに,情報伝達の具としての視覚像の開明を,版画を通じて行うことは,同時代の状況に照らし合わせて,極めて有効な方法である。369-

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