鹿島美術研究 年報第9号
398/428

18世紀は特に大量の版画が出版された時代で,質的にも高いレヴェルを保っている。18世紀の大衆は,油彩作品よりもむしろ版画を身近なものとして,視覚文化の重要な⑱ 白描物語小絵の基礎的調査研究調査は主にパリ国立図書館の版画室で行う予定である。同版画室は,1672年以来,国内で出版される版画について一定部数を献上することを義務づけており,さらに意欲的な収集も加わって,実に膨大な体系的コレクションを形成している。なかでも,この18世紀に残された版画資料は,一部の研究者によって開拓されつつあるが,なかんずく莫大なために,まだまだ十分に活用されているとは言いがたい状況である。版画は複数性,伝播性を特質とするものであり,また比較的安価であることから,担い手としていたと考えられる。従って,従来のように,版画を油彩画の二次資料として考えるのではなく,油彩画をも方向づける,基礎的な認識のレパートリーを形成する要素として扱ってゆきたい。上記の問題を考えることは,今後の近世美術史が新しい視点を獲得するうえで,非常に意義深いことであると信じている。研究者:共立女子短期大学女子聖学院短期大学国士館短期大学近年,漢画全盛の観のある室町時代における,大和絵再考の動きが盛んとなっている。しかしながら,当然この時期漢画系水墨に対置して注視されるべき,大和絵系白描絵巻の動向に対する関心は意外にも低く,その実証的解明は必ずしも進展していない。殊に,鎌倉時代の代表作中心に研究の進められてきた白描物語絵巻の分野においては,室町時代以降の作品研究は立ち遅れており,未だその展開の様相は解き明かされていない。しかも,この時期多数制作されたと推定される,白描物語絵巻の主流をなす“小絵”と呼ばれる小画巻形式の作品群には,現在所在不明のものや,未紹介作品,海外流出品も少なくなく,実証的研究上困難な状況を呈しており,早急な調査と基礎データの整備が痛感されるのである。本調査研究は,最近の室町大和絵再考の動向を受け,この従来看過されがちであった室町時代における白描物語絵巻の展開の解明をめざし,現存する白描物語小絵の徹底的な基礎調査研究を行うことを目的とするものである。その実施によって,従来欠非常勤講師吉田英理子(佐伯)370-

元のページ  ../index.html#398

このブックを見る