⑳ 滞欧期の須田国太郎一日本の油彩画受容とセザニズムー研究者:京都市美術館学芸員中谷至宏フランス近代絵画の移入が主流を占めていた明治以降の日本の油彩画受容史にあって,須田国太郎がスペイン,プラド美術館においてヴェネチア派絵画を中心とした16■18世紀の絵画の模写による研究から出発したことは特筆すべき事柄であると考えられる。備えつつ,模写を通じて油彩技法の本質的な特質を自らの手を通して探ろうとしたが,一方で風景写生を試みながら,19世紀絵画,ことにセザンヌの解釈を独自に試みていたことがうかがわれる。須田国太郎の滞欧期に関しては,彼の日記をもとにした岡部三郎氏の研究等がすでになされているが,本研究においては,須田の滞欧期の模写の対象の選択の在り方,模写の技法的な変容を詳細に検討することによって,彼の関心の所在を明らかにし,わが国の油彩画受容史の一つの様相を照らし出すことができると考える。また,風景画と,現存する彼が撮影した多くの未整理の風景写真を詳細に検討することによってそこに共通する視覚を読みとり,加えて彼の美術史家としての文献研究の調査を通じて,彼のセザンヌ解釈,特にModulationの概念の解釈の在りようを考察し,日本におけるセザンヌ主義(セザンズム)の形成過程の一様相をも明らかにすることができると考える。⑪ 亜欧堂田善の作品に関する研究研究者:府中市美術館準備室学芸員金子信久江戸時代の洋風画家,亜欧堂田善は,洋風画のほかに日本画,実用銅版画などを手がけ,画業は多岐にわたる。しかし,とりわけ絵画史上注目されるのは,やはり銅版や油彩の風景画や風俗画である。この種の作家としては,まず先駆者,司馬江漢がいるが,江漢の作品が風景画中心であるのに対して,田善は風俗を主題とした作品に特徴がある。正確な遠近法の背景抽写のなかに,デフォルメされ,種々の変化に富む人物像が描き込まれた画面には,たんに西洋画や在来の描法だけにとらわれない独特の1919年から23年まで4年間の滞欧期において,彼は美術史研究者としての問題意識を-372
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