れている宗達芸術の「日本的特質」を詳らかにする端緒を開くものである。⑬ 垂迩曼荼羅における図像の借用と創造研究者:東京国立博物館学芸部美術課建築室長中野照男熊野曼荼羅は,三所権現,五所王子,四所明神その他を,整然と並べたものが多く,それらはどれも同じような構図をもつと思われるが,なかに五所王子の若宮,あるいは那智滝宮を重視する構図のものがあって,その際には諸導の配列に変化がみられる。また白山曼荼羅の場合にも,加賀系のものと,越前系のものとでは,諸尊の配列が異なる。このように,同じ垂迩曼荼羅の中にも,図像や構図の変化が存するので,個々の図像の特徴や配列を細かに分析することによって,その垂迩曼荼羅がどこで制作され,またどういう意図で制作されたかを明らかにすることができる。また,垂迩曼荼羅の遺品のなかには,和歌山の竜泉院の伝熊野曼荼羅のように,構図的にも,図像的にも,他の熊野曼荼罷との関連が求め難く,はたして熊野曼荼羅と判断してよいものかどうか,疑しい作品がある。また,諸尊集会図という便宜的な名前で呼ばれている一群の絵がある。それらは,諸尊が規則的に並べられており,時に自然景を背景にもっているという点で,垂迩曼荼羅と似た性格をもつものであるが,それらの図像的な意味についても,また制作の意図についても,必ずしも明らかにされていない。本研究では,各種の垂逃曼荼羅の図像と,この諸尊集会図の図像を細かに対照することによって,これら諸尊集会図の図像的な意味をも,明らかにすることが可能であると考える。⑭ 巻胎漆器の研究研究者:宮内庁正倉院事務所保存課整理室長(総理府技官)木村法光① その意義今,調査研究のテーマとするのは,漆器の素地に対するものである。古代の東洋でのみ発達をみた,極めて特殊な,しかも大変優れた構造を持つものである。その技術が優れていたために,この技法によって作られた合子や箱物類はほとんど壊れたものがなく,単に外観からはいまも肉眼ではどの様な構造になっているのか想像すること374-
元のページ ../index.html#402