鹿島美術研究 年報第9号
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⑯ パウル・プリルからクロード・ロランヘ16世紀フランドルの風景画はその重要性にも拘らずこれまで不当にも低く評価され個々の実際の作品の調査研究を通じて明らかにして行くことである。このことは従来,停滞期としてとらえられることの多かった十世紀彫刻について,その典型となり得た作例において,これを雅びな作風の継承とその多様な展開の中でとらえ直し,その軌跡をたどることで改めて十世紀彫刻史を栢極的に評価しながら再構築をしていこうと試みるもので,従来等閑視されることが多かった十世紀彫刻の研究に一石を投じることになればその意義は大きいものと思われる。ーイタリアにおけるフランドル風景画の受容と理想風景画の成立一研究者:国立西洋美術館主任研究官幸福てきた。それは19世紀の自然主義を根底にすえた風景画観が支配的だったためであり,ヴェネツィア派からクロード・ロランに至る神話的理想風景と17世紀オランダの写実的風景画のふたつをとりわけ高く評価してきたためであった。筆者はパティニールに始まりブリューゲルで頂点に達する16世紀フランドルのいわゆる「世界風景」の復権をはかるべく,「ブリューゲルとネーデルランド風景画」展を企画し,そのカタログにおいてここうした自然主義的風景画観がもつ様々な問題点を明らかにした。こうした研究をもとに,より広い視点から16世紀イタリアとフランドルの風景画における諸問題に検討を加えていきたい。こうした視点に立つ時,極めて重要なところに位置するのがパウル・ブリルである。アントウェルペンに生まれながらその生涯の大半をローマで過ごしたこのフランドルの風景画家はイタリアとフランドルという問題を考える際の根本的問題を提供するものといえよう。カタログすら出版されていないこの画家の全体像をつかむことは容易ではないが,その作品を丹念に調査してい〈ことでさえ大きな意義をもつものといえるだろう。また,従来,ともするとヴェネツィア派からの流れだけで説明されることが多かったクロード・ロランの風景画に対するもうひとつ別な見方が提示できるのではないかと考えている。輝-376-

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