鹿島美術研究 年報第9号
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ようにスペインで成立•発展したかの理解は欠くことのできない問題である。しかも⑰ 南イタリア(プーリア地方)における中世壁画の研究⑱ ファン・ファン・デル・アーメンの静物画-17世紀スペイン静物画史におけるその意義一17世紀スペイン静物画は,いわゆるスペイン絵画の「黄金時代」のーエピソードとし研究者:金沢大学助教授宮下考晴ジオットーによって完成の域に尊かれたフレスコ画法(buonfresco)に先行する長い試行錯誤の時代は未だ明らかにされてはいないか,そこには高度な文化の中に洗練された美術を育てていたビザンチン文化圏と,地理的にも隣接していた南イタリアの接触を見逃すことはできない。間断的に渡来していたビザンチン文化圏からの修道士たちは,それぞれの神学的イメージの必要性をラヴェンナにおけるガラス・モザイク表現とは異なる壁画として,洞窟構造の修道院や礼拝堂内に自由に表現した。ことにイコノクラスム(聖像破壊運動)の余波を受けて渡来した聖像肯定派かイタリア美術に与えた影特については,概念的には説明されているものの,具体的には実証されてはいない。この点に関してだけでも,9世紀から10世紀頃にかけての南イタリア各地に点在するビザンチン壁画群を研究する謡義は大きい。南イタリアの中世壁画としては,モンテカッシーノの系列に属すサンタンジェロ・イン・フォルミス(フレスコ圃制作は1I世紀の後半)のロマネスク壁画であるが,それに先行する大小の壁画群は未だ充分な調査研究がなされていないどころか,あまりに数が多いため,保存計圃すら遅々として進まない現状にある。今後は組織的,系統的な調査を実施して,それらの歴史的な位置付けを目指し,保存・修復の重要性を強く訴えていかなければならないと考えている。研究者:東北学院大学教養学部助教授我国におけるスペイン美術の研究は,従来エル・グレコ,ベラスケス,ゴヤといった,いわば巨匠の個別作品研究に傾き,同時代の多様な美術潮流の研究,すなわち巨匠たちを育んだ当の美術史のコンテキストの解明な等閑視されがちであった。ベラスケスのボデゴンに代表されるスペイン静物画の場合も,その静物画自体どの森美智子-377

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