鹿島美術研究 年報第9号
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⑲ 宋代着色山水画に関する研究て語られるべきものではなく,同時代の北方,イタリアのそれに匹敵する高水準の,きわめて独自な芸術成果を生み出している。昨今,この分野に対する海外の研究者の関心は高く,1983-84年のプラド美術館,1985年のキンベル美術館(アメリカ)における大展覧会などを通して,スペイン静物画の諸問題の解明は多角的に浮き彫りにされつつある。物象を表現対象とする静物画というジャンルは,作品が受容される杜会階層のメンタリティや物質観を反映するものでもあり,ある面では大絵画以上に杜会史や美意識=趣味の歴史と強く連携すると言っても過言ではない。本研究が主題とするファン・デル・アーメンは,17世紀スペイン絵画史上中心的な位置を占める画家で,しかもフランドル系の移民貰族として,ベラスケスと同じ時代の宮廷で活躍した。当時のスペインにおいて静物画の主要な享受者は王侯・賞族であり,その意味で,彼の作品群は静物画が享受されるその杜会の趣味,物質観を最も敏感に反映・先取りしうるものであったとすら考えられる。また彼の現存する作品例,文献資料が豊富であることも,当時のスペイン静物画の特質を具体的に検証する上で,望むべき好個の事例とみなしえよう。とはいえ海外におけるファン・デル・アーメンの研究は,未だその端についたばかりというのが現状である。他方,当研究者は近年一貰してスペイン初期静物画の研究調査に携わり,ファン・デル・アーメン研究の重要性を痛感するに至っている。それゆえ本研究は,従来の研究成果の欠を補完するべく,新たな調査と研究史の再検討を通して17世紀スペイン静物画史におけるファン・デル・アーメンの意義を明確化し,ひいては17世紀スペイン静物画の独自性の所以を美術史的に明らかにすることを最終課題とするものである。研究者:東京大学文学部助手板倉聖哲宋代着色山水画の存在は,日本の平安末・鎌倉時代のやまと絵を考察する上で日本美術史の研究者からも注目され,その研究に不可欠なものとなりつつある。それは異国の中国の風景を表すために中国絵画を摂取するというレベルを越えて,様々なアスペクト,即ち,モティーフから表現・構成法・素材の選択に至るまで影曹関係を検討-378

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