鹿島美術研究 年報第9号
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⑬ 「北斎漫画」の研究けての製品も,その多くは,中国製陶磁器の模倣品である。瓶子や四耳壺などに,簡略化された日本独自の文様が施されることはあっても,器形については,類似品を作ることが主眼であったと言っても過言ではないであろう。この平安時代以来,一貰して行ってきた瀬戸・美濃陶の中国陶磁模倣の姿勢が大きくくずれたのが桃山期である。茶の湯という新しい文化の要請を受けて作り出された志野や織部などのいわゆる桃山陶器には,確かに模倣からはなれた自由な造形意欲が満ちあふれている。しかし,最近少しずつ,この時期の製品で中国および朝鮮半島製品の写しと思われるものの存在が明らかになってきた。また江戸期の瀬戸・美濃陶については,従来いわゆる民芸品として愛好されることはあっても,その臨匠については深く研究されることがないまま,今日に至っているのが実状である。しかし,これらについても子細に検討してみると,中国製陶磁器をはじめとし,様々な工芸品の影籾を受けていることかわかってきた。以上のような,桃山期以降の瀬戸・美濃陶における中国製陶磁器,および諸工芸品の影評の実態を探るのが本研究の目的である。研究者:財団法人出光美術館江戸後期の代表的な浮世絵師,葛飾北斎か制作した版本のひとつである『北斎漫画』は,全十五編(うち三編は没後出版)に四千図あまりの大小さまざまの絵図を収めた,いわば北斎の絵画百料ともいうべき興味のつきない作品群である。文化11年(1814)から没年までの北斎の後半生にわたって次々と発表され,北斎研究のいわば第一級資料であるこの作品については,従米美術史以外の人文科学の諸分野からも深い関心が持たれた。ところが,肝腎の美術史の方面からは,ようやく書誌学的考証の作業について整理がついたばかりで,その内容に関するさまざまな問題,たとえば,さまざまな造形面にみる北斎圃の特徴であるとか,あるいはまた,北斎が考えた『北斎漫画』という絵本そのもののコンセプトとは何か,などといった点について,十分に詳細な考察がおこなわれたとは言い難いのが実情である。さらにまた,一般には江戸期に盛行した浮世絵師の絵本類の代表的作例といわれなから,この『北斎漫画』が一体どのように江戸の版刻絵本史に位置付けられるのか,内藤正人-381

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