鹿島美術研究 年報第9号
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といった根本的な点について,まだまだ考察の余地が1•分にあると思われる。これら⑭ 平安末期における旧派仏師の新様への模索⑮ 野呂介石の画業についての研究•明和年間には従来おこなわれなかった『北斎漫画』の細部にわたる分析の欠如に起因するものと考えられるのである。北斎をはじめとする浮世絵師のみならず,近世期の画家たちの個人研究は,その多くが現在作品の詳細な分析の段階に入っている。七十年以上もの作画歴と,その間に文字どおり作画三昧の生活を送った絵師と評価されるこの北斎は,肉筆画・版画・版本挿絵などのさまざまな作品形式について,人物画・風景画・花島画など森羅万象ありとあらゆるものを揺いた傑出した存在であった。その多面的な絵師像の把握のためにも,『北斎漫画』研究を深め,北斎の個人研究の進展に努めたい。研究者:群馬県立女子大学助教授麻木脩平筆者は二年前に「初期慶派様式の形成と古代彫刻」(『仏教芸術』184,186号)と題する論文を発表し,12世紀半ば過ぎの奈良仏師の中から鎌倉新様式が形成されてくる経緯と,彼らの造形意識とを考察したが,同時期の京都の旧派仏師の作品については,きめ細かな検討を加えることができなかった。現在でも筆者は,12世紀後半の京都仏師が鎌倉新様式の形成に梢極的な役割を果したとは考えていないが,しかし従米言われてきたように,彼らを守旧的のー語で片づけるのが適当でないことも確かである。京都仏師の中の新しい様式への動きを多面的に検討した上で,これを藤原一鎌倉彫刻史の上に正当に位置づけることが,どうしても必要である。それができてはじめてこの時代の彫刻史は,過不足のない,より確かな実像を結ぶことができるようになるであろう。今回の研究の目的はこの点にあるわけで,それは筆者自身にとっては,二年前にし残した宿題に対する解答の試みでもある。研究者:多摩美術大学美術学部学科研究室副手坂口日本南画の大成者の1人に数えられる画家に,江戸時代中期,活躍した池大雅がいるが,南画が各地に伝播し全盛期を迎えたのは,彼の没後,文化・-382-

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