鹿島美術研究 年報第9号
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⑫ プルゴーニュ地方の初期ロマネスク扉口装飾Autun大聖堂西扉口,Vezelayのラ・マドレーヌ修道院付属聖堂ナルテックス扉口研究者:早稲田大学大学院後期博士課程常国マヤの二作例に代表される12世紀中葉のブルゴーニュ地方の聖堂装飾は,地方色豊かなロマネスク美術のなかでもとりわけ高い水準と美術史的な価値を誇ってきた。しかしその重要性に反してこれらの作例に関する未解決の問題も少なくなく,タンパンを中心に据えたこの地方独自の扉口装飾の形成過程と図像的な展開の跡付けも,まさにそうした重要課題の一つである。近年の梢極的な実地調査と科学的方法の導入の結果,エ事請負印と詳細な写真分析から工房の移動状況の推定を試みたC.E.Armiの研究をはじめ多くの成果が齋され,ブルゴーニュ・ロマネスクの研究は新たな局面を迎えた。Gesta誌のクリュニー特集に伺えるように,最近の研究は第三クリュニー(Cluny修道院付属第三聖堂)の偉業とそれに続く盛期ロマネスクの作例群が,従来強調されてきたように他の地方からの影聾の下で形成されたものではなく,この地方の極めて限定された範囲内の影評関係の中で徐々に形成されたものであるという視点に立っている。それならばこうした新たな視点を踏まえて扉口装飾の形成と図像的な展開の跡付けを試みることは可能であろうか。ここで初期の扉口装飾の小作例が集中する南西部丘陵地域が大きくクローズ・アップされてくるか,申請者は1986年に実施した自己資金による調査旅行でこの地域に入り,既に主要な5作例の基礎調査を終えている。今回の研究の目的は第三クリュニー造営に先立って制作されたこの地域の総ての作例について再度綿密かつ徹底的な実地調査を行うことによって,失われた第三クリュニー大扉ロと後の作例群に至る扉口装飾の発展過程を厳密に跡付け,クリュニーの役割について再考を試みることにある。これによってY.Christeの研究以来殆ど顧みられていない聖堂の扉口装飾の問題に新たな見解を加える極めて意義深い成果が期待できることを確信している。388-

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