研究目的の概要:研究者:筑波大学講師五十殿利治大正期の新興美術運動は昭和63年の「1920年代日本」展をきっかけに国内でも関心が高まりつつある。また地方,国際的にもパリのポンピドゥー・センターでの「前衛の日本」展(1986年)など,注目を浴びている。しかし,こうした関心の高まりに比べて基礎的な研究の立遅れはいぜんとして解消されていないのが実情である。本研究においては,とりわけドイツにおける日本人作家の活動を主な考察の対象とする。パリに留学した作家たちはほとんど大正期の新興美術に関与しなかったのに対して,たとえば,村山知義に代表されるように,ベルリンにいた作家たちは東西から流れこんでくる,様々な情報に,また作家たちに直接に接触して,1920年代の美術の一拠を担うことになったことが明らかにされよう。一方,大正期の新興美術を正しく位置づけるうえでこのような国際的な交流を調査研究することは,海外からの影聾といわれるその「影聾」の性質を正確に厳密に惧lj定するために不可欠な作業であり,そのためには現地での資料収集など基礎をかためる必要があると考えられる。このような土台なくしては単なる「模倣」ときめつける議論を越えることができないであろう。また大正期の新興美術運動は昭和の美術の前奏曲となった点で,本研究の成果は我が国の近代美術史に,さらに別の視角を提供するものと考えられる。研究者:トキワ松学園女子短期大学専任講師篠塚千恵子ホメーロスの叙事詩に代表される神話物語が古代ギリシア美術に表わされるようになるのは,紀元前8世紀後半から7世紀初めにかけてである。以来,それはギリシア美術の主題の主流をなし,後世の西洋美術の図像伝統に大きな影靱を与えていくわけだが,そうしたギリシアの物語表現形式の形成,発展を考える上で,紀元前6世紀前半の「フランソワの甕」と通称されるアッティカ製黒像式陶器はエポック・メーキングな意義をもっている。「フランソワの甕」には,柄の表現を入れると,合計12の主題が表わされており,これほ① 大正期の新興美術とヨーロッパの前衛美術(その2)② 「フランソワの甕」研究-390-
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