鹿島美術研究 年報第9号
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⑥ 中世蒔絵の基礎研究は広く美術工芸品に用いられる金銀のシンボリズムなどにつながっていくであろうし,また後者は,絵様に蓄栢されたイメージを読み解く作業に結びつくであろう。とりわけ金銀泥絵は,日本では,料紙の下絵として発達したが,それゆえ絵と言葉の関わりが逐語的にみられる傾向かある。絵画は平面に様々な材料を定着させる行為であると同時に,人間が様々に作ったイメージを重層的に付着する行為でもある。金銀泥絵は,絵画全般からみれば,マイナーで特殊な領域とみられているか,絵画のもつ以上の特性を極めて単純明快に示している分野であることが明らかとなってきた。平安時代から桃山・江戸時代をつなぐ重要な接点である14■16世紀という時期を,金銀泥絵ー一ーと〈に連歌懐紙という小さいが制作時期の判明するスケールとなる窓からみなおし,優れた作品がどんな文化的背景や精神をもって出現したかを底辺から,理解していきたいと思う,いわば,中世絵画の基調を認識する試みであり,今後,この時代の総合的なイメージの辞書を構想していく一助としたいと思う。中抵工芸愈匠解明の一助として研究者:大阪市立美術館学芸員土井久美子中世蒔絵に関する研究は,伝世品・出土品を含めても制作年の明らかな作品が少なく,器形や寇匠など表面的な特質のみから様式編年を厳密になしえないため進んでいるとはいえない。しかし,蒔絵は金銀というや工芸などと深く関連しており,その編年は重要な課題といえよう。近年の研究によって従来困難とみられていた蒔絵の技法的側面からのアプローチがすすみ,実体顕微鏡で撮影した蒔絵粉の拡大写真の分析が,作品の制作時期を知るための手がかりとなることが示された。しかし,中世蒔絵に関しては,粉の拡大写真はもとより,作品の内部や裏側などの細部の写真すら,全てが公開されているというわけではなく,研究が困難である。本研究では鎌倉から室町時代までの蒔絵作品について調査・計測・写真撮影・顕微鏡撮影を行い,その中に含まれる制作年代の明らかな作品をもとに整理・分類し基礎資料としたい。な素材を使うことからも明らかなように,同時代の絵画393-

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