⑨ 1910年代におけるポスト印象派の意義19世紀後半から20世紀初頭にかけての印象派と呼ばれる画家たちの美術史的位置付けは美術の一つの規範を作り出した時代であり,その本質を論ずる上で極めて重要で興味深い研究テーマである。しかし,この研究は同時に多くの困難も伴なっている。まず第一に,その中心地コンスタンティノープルにこの時代の作例かほとんど現存していないということ。第二に他のモニュメンタル絵画研究全体についても言えるように,三次元的空間芸術は常に現場での調査研究が必要不可欠となるか,常に,その条件を満たすことは不可能であるため,現場の細かい写真資料及び図面が必要となる。そのため個々の現地調査報告書が出ていないモニュメントについては独自の調査を実施する必要があるという点である。第一の問題点について,幸い,首都から離れた地域に,この時代のモニュメントが残されているため,それらの作品を通して,首都の美術の発展を見ようとすることは可能である。その代表的な場所がギリシアの島部,マケドニア地方,キプロス島,シチリア島,南イタリア地方,カパドキア地方である。それぞれは,首都の美術の直接的反映と見られるものと同時にその地方独特な様式をも廉ねそなえており,結局この研究は各地の同時代作品との綿密な比較研究が重要である。近年,その観点からそれぞれの比較研究でI.-11期ビザンティン絵画の見直しを計る書物が書かれ始めているが(Wharton著,Artof Enpire等)依然としてその基礎賽料が不足しているのが現実である。Kitzingerによるシチリアの研究などに比較してもキプロスの諸聖堂の基礎査料は不足しているのが現実である。よって,キプロスの諸聖堂の陥本的賽料をすでに成された陥礎研究に追加することで,さらに徹底した同時代美術の諸地域の比較研究が可能となろう。そのためには,現在,キプロス島での実地調査が必要不可欠といえる。研究者:静岡県立美術館学芸員尾島美那個々の画家や作品に関する一般的な評価や理解にもかかわらず,不安定な要素を残している。それにはもともと印象派というグループを限定された理念の下に統一することが困難であることが原因の一つになっているかもしれない。印象派が20世紀美術に及ぱした影特に関しても厳密に考えてみると,具体的事実にそくした調査は,いまだ十分に行われていないように思われる。本研究では,20世紀美術の動向をふまえ,1910年代のポスト印象派のあり方の調査によ-395-
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