上述の屏風に見られる図様は,2つの等後印山桜図屏風に寺塔と橋が描き込まれる以外は,山のすっきりとのびた稜線に,樹木を配する平明なものである。特に興味深いのが,優れた作域を示す禅林寺の山杉図屏風であろう。既に武田恒夫氏によって指摘されているように,右隻の松の根や幹などに等伯の筆致に近いものがある。遠山の跛や米点,樹林の奥の樹木などに効果的に墨を用いる手腕は見事で,水墨の筆法をも熟知した絵師の作例と思われる。金箔を貼り並べた霞が木立を縫って流れるが,その霰の縁は金泥でぼかされているのをはじめ,右隻の滝の周囲では滝壺からたちのぼる霧状のしぶきを思わせるように金泥がはかれており,金の扱いにも配慮が行き届いている。樹木はその種類に応じて枝ぶりや葉の形を丹念にかえてあるが,ことに,繰り返される鉾杉のリズムがここちよい。季節の表現を捜すと,まず,右隻第一扇に枝先にだけ小さな楕円形の点が三つづつ打たれた痕のある一叢の木々に目がとまる。剥落してしまっている顔料が何色であったか不明だが,緑色であれば春先の新芽を,あるいは白であったなら,春一番に花をつけるコブシを描いたものであろう。そして,左隻には第五扇に剥落のため色はわからないが一本の楓の枝がのぞき,第六扇には雪の遠山が拙かれ,ごく控え目ながら四季の表現が盛り込まれていることを確認できる。このような山水図の成立を,阿弥派の山水図屏風や,上述の金剛寺の山水図屏風などと比較しながら考察することも課題の一つであろうが,今回はその展開を追うことを試みた。そこで図様の上で関連が認められる作例として検討の対象となったのが上述の屏風群であり,いずれも,山杉図の図様をより平明に,より簡潔にしながら踏襲して行く姿勢が明らかなものである。なかでも2山桜図屏風は,図様,印影,そして描法の三点において注目すべき作例である。まず,図様の点ではこの2山桜図屏風は山杉図屏風のみならず,同じ禅林寺に伝えられてきた檜原図屏風(六曲一双)を意識して描かれたものと考えられる。そして等後と読める印影は,この屏風か等伯とともに活躍していた長谷川宗宅に関わりをもつものであることを示している。墨を用いた樹木や金の霞の縁を金泥でぼかす描法は山3 杉木立図屏風六曲一双金地済色西教寺4 山桜図屏風六曲一双金地着色大坂城天守閣博物館5 山桜図屏風六曲一双金地着色個人蔵6 檜桜図屏風六曲一双金地着色所在不明-50
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