作品を多く残している。「源氏物語一明石・須磨•関屋図」三幅対(根津美術館蔵),⑤近世土佐派の作品研究ー中・後期における基準作の確定一研究者:京都市立芸術大学美術学部非常勤講師岩間今年度は近世後期の土佐派絵師の作品を収集し,その全体像を把握することに努めた。その結果,相当量の資料を収集することができた。その中から各絵師の特徴を示すものを何点か紹介する。光起の作品と特徴禁裏絵所預の地位に就き土佐家の中興を果した光起は,幅広い画題をこなすとともに画面形式に独自の工夫を凝らし,巧者ぶりを発揮している。例えば画面形式別にいえば,多くの屏風を制作している。中でも「須磨・明石図」屏風(出光美術館蔵),「近江八景図」襖(勧修寺蔵),「松島・厳島図」(徳川美術館蔵)などはひろびろとした視野をもつ新しいやまと絵山水画であり,名所絵に新しい展開を示したものといえる。こうした光起のダイナミックな面面構成は「源氏物語一若紫・薄雲図」屏風(個人蔵),「徒然草図」屏風(個人蔵)などの物語絵の屏風にも生かされている。また前代の光削,久翌らの源氏絵は色紙絵と障屏画のみが知られるのに対し,光起は掛け幅形式の「源氏物語一明石図」(個人蔵)はその一例で,伝統的な構図を縦長の画面にシフトすることに成功している。そのほかにも多くの作品か見いだされたが,光起の画題は古典に取材したものや和歌・文芸に関する人物・神像が多く,土佐家に寄せられた期待が伝統の規範であったことを物語っている。そのことを実証するように,「土佐家粉本」(京都市立芸術大学蔵)の中に多くの光起筆「柿本人麿像」が見いだされた。光成の作品と特徴光成の作品としては,光起との合作による「秋郊嗚鶉図」(東京国立博物館蔵)がつとに有名であるが,光成は光起に倣ったものが多く,光起と同じ画題を非常によく似た作風で描いている。中でも光成筆「紫式部観月図」,「紫式部図」(いずれも石山寺蔵)はほとんど同一構図の作品が光起の作品中に見られるものである。しかし,「江口君図」は能に取材した新しい趣向のものであり,「三十六歌仙図」扁額(波太神社蔵)も光成香61
元のページ ../index.html#83