鹿島美術研究 年報第9号
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木を巧みに配置し,異なる帖を異時同図法のように有機的に連続させて描いている。光芳の優れた筆力と進取の気風は沈滞しがちな江戸中期にあって,土佐家の芸術的生命を延命させたといっても過言ではない。光貞の作品と特徴光貞は寛政度内裏の障屏画を描き,当時すこぶる盛名があったが,今日同時代の応挙や燕村に較べて高い評価を受けているとはいえない。「四季の松図」屏風(個人蔵)や「月次図」屏風(個人蔵)はやまと絵の伝統を守るものであるが,装飾性を増し,やや観念的に処理されている。「紫式部図」や「摩翡図」などの伝統の画題に加え,「福禄舟図」が三点,「高砂図」が二点(いずれも個人蔵)見られたのは町家の注文に応じたものと推定される。これらの作品には陰影法や像容に円山派の影怒ドが顕著に表れているか,新しい技法を画派にとらわれず採用した光貞のおおらかな面を歳わせる。光字の作品と特徴光字は没時に正四位下を追贈されており,絵師としては破格の出世を遂げた。その現存作品は光起,光芳を上回る贔が見いだされる。光字は伝統的な作風と画題の絵を描く一方で,それ以前の土佐派とはまったく異なる作風の絵を描いている。それは本居大平費「時烏図」(個人蔵),吸江斎賛「松図」(個人蔵)などのように水墨,あるいは付立技法を用いた滋洒な作品である。着賛者には茶人,国学者,禅僧が目だち,空間を大きくとった構図は着賛と一体化して清爽な世界を表している。これらは近世後期に京都画坦を支配した四条派に通ずるものがあり,ここに至って土佐家特有の描法というものはまったく姿を消したかのように思える。しかし数点残る「舞楽図」(個人蔵)や「源氏物語図」(個人蔵)はいずれも伝統の技法を墨守しており,土佐家の面目を保っている。光清の作品と特徴光清は安政度内裏に描いており,本画が現存するとともに,小下絵や実物大の下絵が「土佐家粉本」に見いだされ,賞重な資料となっている。それらの絵は場所柄,金泥を多用した濃彩を用いたものであるため,やや生硬な感を免れない。光清の本領は,むしろ掛け幅などの小画面に発揮されている。「住吉図」(個人蔵)63

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