鹿島美術研究 年報第10号
109/142

研究目的の概要① 中世の仏教版画について一造像とその背景を中心に一研究者:町田市立国際版画美術館学芸員内田啓我国の仏教版画研究は重要な分野であるにもかかわらず,他の仏教美術研究(彫刻,絵画,工芸,書蹟等)に比べ,著しく遅れていることは広く認められるところである。それは多くの事例が仏像の納入品であり,解体修理をもって新発見となる場合がほとんどで,調査が積極的に行い難いことも一因ではあるが,かと言って彫刻史側からアプローチすることもなく,また,絵画史側からアプローチするものでもなかった。いずれの場合も二次的資料の位置にあったのである。仏教版画は版画であるが故,下絵制作者と版木制作者(彫板)の二者が必要となる。下絵の問題は絵画史的であり,彫板の問題は,彫刻史的である。また,経典開板(例えば春日版など)との関連も重々考えられ,その問題は書蹟史的なものでもある。このように考えると,仏教版画は仏教美術の極めて総合的な所産ということになる。従来の仏教版画研究は比較的信仰史的な面から考察されたものが多い。印仏が一体ー版による多数印捺,多数作善という多量性の特質のため,いきおい制作に関しては後考とされ不透明となっている。本調査研究では,全国の事例をできる限り収集し,時代的かつ様式的に分類し,わずかに残る銘や墨書,文書等を注視し,同時期の文献史料も加味しながら造像とそのを明らかにし,仏教美術史の流れの中に位置づけたい。② 聖衆来迎寺本「六道絵」の調査研究研究者:帝塚山学院大学専任講師滋賀県大津市・聖衆来迎寺所蔵のるもので,我国仏教説話画の歴史のなかで,その最盛期における最大の傑作として人ロに腑炎されている。しかしながら,戦前の研究一例えば大串純夫「十界図考」(『美術研究』一一九,ーニ0号掲載・昭和一六年)等ーをのぞいて,本作品を考察の中心に据え,作品全体の絵画史的位置づけを考察した論考は全く発表されていない。近年,加須屋「六道絵」十五幅は鎌倉時代後半の制作にな79 -誠

元のページ  ../index.html#109

このブックを見る