⑤ポンペイ第一様式研究研究者:東京大学大学院人文科学研究科美術史専攻博士課程今井桜子ポンペイ壁画は,1882年にアウグスト・マウによって4グループに分類された。その第ーグループを「第一様式」と呼ぶ。しかし,以来ポンペイ第一様式は,装飾壁画の研究史において余り重要視されることはなかった。近年になってポンペイ第一様式に関する論文が発表され,また,カタログとともに総体的な研究による大著が発表された。この「様式」が流行したのは,紀元前200-80年頃であるが,ポンペイ埋没時の紀元後79年にも他の装飾様式とともに共存し,壁画装飾として確実に機能していた。それは,当時のポンペイの人々(つまりはローマ人)にとって第一様式装飾が充分に価値のあるものであったことを示している。従って,第一様式の歴史を探ることはポンペイ壁面装飾の歴史全体に及び,またヘレニズム期における壁面装飾がいかなるものであったかを探ることにもなる。今回の研究では,テーマを2つに絞った。ひとつは,ポンペイ第一様式住宅(主に「ファウヌスの家」)における装飾壁面の形象表現とその図像学的プログラムに関する研究である。ファウヌスの家は有名な「アレクサンダー・モザイク」で装飾されていたことからもわかる通り,研究対象として非常に要な住宅である。もうひとつは,ギリシアの第一様式(組積造り様式)とポンペイ第一様式との比較である。ギリシアからイタリアに第一様式がもたらされた際にどのように受容されたかを探り,強いては両者の精神性の相違について検討する。⑥ 修道院禁域内の「聖人伝説図」研究ー15世紀トスカーナ托鉢修道会修道院を中心に一研究者:シエナ大学考古学美術史研究所給費留学生正富りかイタリア,トスカーナ地方において,1700年代の後半から修道院の閉鎖,廃止が大々的に始まったのは周知のことである。その後の再利用と変換について,フィレンツェ大学を初め,各研究機関で近年関心が高まっている。*絵画装飾などの修復,保存と再利用が同時に進められる理想的な場合もあれば,倉庫などに再利用され,修復不可能なほど損傷をうけている変換例もある。例えぱ前述のフィレンツェ,サン・セルヴィの大修道院は隣接する地区教会を中心-82
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