様式が混消したものであろうことが推測される。それらを整理し,様式上の相違を明らかにすれば,既にある程度制作年代が判明している青花との比較研究により,その制作時期を推定することが可能であろう。過去の明代陶磁研究は官窯製品を軸として進められてきた。しかし,近年では貿易陶磁研究の進展によって,諸外国から多様な中国陶磁の様相が報告されるにいたって,官窯製品のみでは巨大な景徳鎮陶業を理解することが難しいと考えられるようになっている。「古赤絵」の制作年代及び年代に伴う様式上の変化を捉えることができれば,青花の研究成果と併せ,少なくとも明代中期の全体像を捉える礎とすることができるであろう。⑪ 仏足文を有する阿弥陀如来像の調査研究研究者:東京国立博物館資料部資料第三研究室長山本鎌倉時代の仏像彫刻はその基本的な性格の中に,仏像を造りものではなく,より具体的・現実的な仏そのものとして表現しようという,一種の現実主義をもっている。裸形に造った像に実物の衣を着せる例もその一つのあらわれであるし,いわゆる「歯吹阿弥陀」の系統の作例も同様である。本研究では,後者の一群について,従来から注目されていた「歯吹」の表現よりも,その系統の作例により多くみとめられる,仏足文をあらわす点に注目する。立像に仏足文をあらわすことは,足裏に通例設けられる大きな柄をなくし,かわりに像底の一部(まれに足裏)に孔を開け,台座から立てた細い柄を通す,という技法によって可能になっている。これに類する技法は平安時代に中国宋から請来された京都・清涼寺釈迦如来立像にみられこの技法成立の背景に中国彫刻の影響があることを考えさせる。仏足文を有する阿弥陀如来立像のうち,「歯吹」の表現にまで至るものは形式的にもかなりの共通がみられるようであり,それらの原像が想定できるが,その像の性格は大いに注目されるところである。本研究は,仏足文を有する阿弥陀如来立像の検討を手がかりとして,中国美術の影もふくめた鎌倉時代彫刻の基本的な性格について考察するものであり,この期の彫刻史研究に少なからぬ意義をもつものと考える⇔-86 -勉
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