⑮ 中国中原地方およびその周辺地域における阿弥陀仏寵の研究研究者:東京国立文化財研究所情報資料部研究員勝木言一郎日本の仏教絵画史上すぐれた作品と評価される法隆寺金堂壁画第六号壁,当麻曼荼羅図などの阿弥陀図像を研究する際に,大陸との文化交流を見のがすわけにはいかない。なかでも隋唐代,長安(現在の西安)や洛陽における寺院を厳飾した浄土変相図や阿弥陀仏寵の研究は不可欠である。しかし,これらの作品はいずれも長い歴史の中に湮滅してしまい,今日では敦燒莫高窟などの石窟寺院に伝わる作品をもとに中原地方の作例を研究するより術がない。その意味からも,敦焼莫高窟に伝わる壁画作例が質・量ともにめぐまれ,浄土変相図の図相を考える上で重要であることは周知の事実となっている。ところが,敦煙莫高窟を代表とする中国西北部は,中央から見れば,かなり辺境な地であり,敦燎莫高窟の作例をもって直ちに日本の阿弥陀図像と結びつけるにはあまりに隔たりがあるように思われる。そこで本研究は,日本の仏教美術の源流をたどるうえで必要不可欠な中原地方に隣接する地域の阿弥陀図像を調査・研究することによって,中国の仏教美術の中にも見られる造形表現の懸隔をうめようとするものである。本研究は中原地方およびその周辺地域における阿弥陀図像各種を現地にて調査するとともに,経典・漢籍にも徴し,その系譜をたずねることによって,阿弥陀図像の成立と展開について考察することに重点を置く。⑯ 狩野元信およびその周辺画家の研究一印影による作品の分類と整理一研究者:京都国立博物館学芸課美術室技官山本英男伝元信画およびその周辺作品を整理する手段として,印の種類ごとの作品分類というごく基本的な方法を考えたのは,後世の擬古作や後印を除外できるという利点もさることながら,作品の制作時期とそこに捺された印の使用状況の間に密接な関係が存するのではないか,と思われたためである。周知のようにたいてい画家は何種類かの印を一生涯のうちに用いるものだが,多くの場合,それが作品の制作時期と相関関係にあることが報告されている。とすれば,きわめて膨大な作品を長年にわたり制作し続けた狩野派にあっては,印の磨滅や破損なども生じやすく,従って,新たに印を作-89 -
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