鹿島美術研究 年報第10号
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るというケースも起りえたのではないかという見方もなされてくる訳である。もちろんこのことは,現状ではあくまでひとつの仮説にすぎない。それを立証するためには,制作時期の明らかな作品の印影の調査と詳細な画風の検討を必要とするが,もしこれが事実とすると,膨大な作品群の編年作業を行なう上での重要な目安のひとつになりうるのではなかろうか。本研究の最終の目的は,正信から永徳あたりまでの初期狩野派の画風展開をあとづけることにあるが,今回の試みはそのためのもっとも基本的かつ不可欠な作業としての価値を有するものである。⑰ 雪舟画系の基礎研究研究者:山口県立美術館研究員福島恒徳雪舟の画系につらなる室町末期の画人たちの研究は,近世漢画諸派とをつなぐための必須の要素であると思われる。しかし雪舟画系についての研究は,近世の雲谷派に関するものをのぞいてあまり進展がなく,いまだ作品や文献の実証的な研究成果が乏しい分野となっている。雪舟の弟子とされる画人たちの伝称作品を紹介する段階から,より絵画史的考察へと発展させていくためには,作品の細かい調査による基準作の洗い直しと,広く文献を検討しての伝記の整理という基礎的な研究が現段階での急務である。雪舟流作家総目録を作成するという作業が,従来あいまいなままにされていた雪舟画系の美術史上の意味を考える上での基礎研究となる。雪舟画系における流派の存在基盤(パトロン・作画の場),流派体制(粉本の共有と継承・構成員と組織)などが研究の進展とともにあきらかになってくるものと思われ,雪舟生前から没年を経て,雲谷等顔による雲谷軒再興までに至る約一世紀のあいだの美術史上の空白を埋めるための一定の成果が期待できる。またその成果は,雪谷派をはじめとする近世漢画諸派への雪舟の影響の伝播過程や,雪舟における流派意識や活動環境などといった,室町から江戸初期の日本美術史研究のなかの大きな問題に有益な研究材料を提供するものと予想される。-90 -とその影曹を強くうけた

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