鹿島美術研究 年報第10号
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⑱ 繍仏研究ー7,8世紀の2つの作品を中心に一研究者:早稲田大学非常勤講師肥田路本研究が対象とする繍仏についての先行研究は,実はきわめて乏しい(当該年代の現存作品には,本研究でとりあげる前期二作品以外に,天寿国績帳があり,これに関する研究の厖大さは言を侯たないが,この作品は帳という特殊な用途で制作されたものであり,当時の繍仏の一般的状況を考える上では,例外的作品として扱いたい)。そうした中では,奈良国立博物館編『繍仏』,刺繍釈迦説法図(勧修寺繍仏)に関する亀田孜,白畑よし氏の論考,敦燈将来繍仏に関する松本栄一博士や最近のウィットフィールド氏,アン=ファーラー女史の所述等は参考にされるものがあるものの,充分に議論されてきたとは到底言い難い。実作品の現状の調査に即した作品研究もなされておらず,例えば作品の主題の同定にしても,殆ど考証されることのないまま最初の見解が踏襲されてきているのである。当該作品が工芸品として管轄されてきたためであろうか。その重要性の割にはむしろ等閑視されてきたと言わざるを得ない。しかしながら,前記のごとく,7 • 8世紀ー初・盛唐時代及び飛鳥・白鳳・天平時代の仏教美術における繍仏の盛行は看過されるべきものではなく,そうした繍仏制作の意義を考究することは,この時期の仏教美術の本質的性格の一面を明らかにする上で,資するところ少なくないと考えるものである。このたびの研究助成金は,主に勧修寺繰仏の伝来関係の史料探索に関わる経費と,敦燻将来繍仏の特殊な主題を考える上で必要な関連作品の調査費用に充てるべく申請をするものであるが,幸いにして受けることがかなうならば,当該問題の解決が得られるのみならず,上述の課題に対しても,一つの視座を提供することができるのではないかと期待される。⑲ 堂内荘厳研究2一鏡を用いた荘厳一研究:サントリー美術館堂内荘厳は,建築・彫刻・絵画・工芸などの諸分野が融合したいわば総合芸術ともうことができよう。しかし,各分野の研究の進歩に比べて,荘厳を総合的に検討する試みは少ない。特に工芸の分野では,金工,漆工などが各々技法上の問題について検討するにとどまり,各々の連絡は十分とは言い難い。それに対し,私は荘厳の図様・内藤栄-91 -

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