鹿島美術研究 年報第10号
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意匠について総合的に検討し,主に経典類と堂宇建立時の信仰形態を通して,意匠の成立した背景を明らかにしようと考えている。それによって,荘厳の意匠や文様は,全て安置された尊像と密接な関連を保ち,意味を持っていることが明らかにされると考えている。私は既にこの方法論をもとに中聰寺に残る大形工芸品を中心に図様・意匠を検討し,金色堂須弥壇の意匠が成立した背景,さらに同寺の国宝螺細八角須弥壇が当初のせていた聰像を推定し,創建期に設置されていた堂宇を明らかにした。この成果は工芸史研究に図様の研究を取り入れた結果であり,今後さらにこの方法論によって今回のテーマである鏡と荘厳との関連をはじめ,多くの問題を明らかにすることが出来ると考えている。⑳ 19世紀後半のヨーロッパ染織品におけるジャポニズム研究者:京都工芸繊維大学大学院博士後期課程廣瀬調査研究の目的は,ジャポニスム研究における染織分野の動きを明らかにすることにある。ヨーロッパ世界の美術が大きく変化した19世紀後半には,日本の芸術が深く関与している。この現象は絵画,工芸,服飾,音楽といった分野にまで拡がりを見せており,それらは互いに関連し合っている。そのため,ジャポニスム研究をもっと探ろうと思うと,美術史,工芸史,服飾史的な立場から,そして美術と産業のつながりを意識して研究を行うことも一つの方法だと考えている。さらに,日本が西洋の技術を取り入れることに努力して殖産興業をスローガンとしていた時代において,同じようにリヨンでも,日本の伝統文様をヒントに,日本的なしかし,新しい様式の織物を生産し,産業を切り抜けようと試みていたことは非常に興味深く思われる。お互いの目的は同じでありながら,相方とも自分とは違うものの中に新しい価値を発見し,それよって芸術の流れを変えていく方向へと進んでいるのである。そのため,デザインや文様などの様式が転換し得るきっかけは,どのような条件が整った時になされるのかについても考察してゆきたいし,このような点に,この研究の価値と構想理由をおいている。-92 -緑

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