鹿島美術研究 年報第10号
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⑪ 瀬戸内海沿岸に所在する中国。朝鮮半島の仏像仏画の研究研究者:仏教芸術文化研究所研究員武田和昭仏教伝播に関連して,仏像や仏画などが,大陸や朝鮮半島から伝来した。その伝来の方法は,例えば渡来人が持ち寄ったものか,また,留学僧や交易によって伝来したものか,あるいは戦利品であったかなど,伝来経緯は様々である。今回の調査により,伝来の経緯を究明探究するとともに,個々の作品について美術史的な考察を加えて,作品そのものの位置づけを確立したい。特に朝鮮半島から伝来した高麗・李朝仏画は,全国の所蔵数の約半数が瀬戸内沿岸に所在していると想像されるので,地域的な分布状況もより明らかにできると思われる。さらに高麗・李朝仏画の個々の作品を深く研究し,未だ不明な点の多い問題点を究明したい。⑫ 江戸後期花鳥画の研究一清朝花鳥画との関連について一研究者:財団法人江戸東京歴史財団近年,江戸時代の日中関係について,歴史や文学をはじめ様々な分野で関心が高まりつつある(荒野泰典他編『アジアのなかの日本史』I-IV, 1992年〜)。美術史においても,「近世日本絵画と画譜・絵手本展」(町田市立国際版画美術館1990 年4月)では,中国の絵画が手本となって日本へ伝えられる様相が,画譜や絵手本を通じて具体的に明らかにされた。また浮世絵においてさえ,中国の版画が影需を及ぼしていることが改めて指摘されている(星野鈴「大雅試論一二つの仕女図から一」『国華』1109号1987年12月)。1731年(享保16)に来日した清の沈南禎が伝えた,いわゆる南頻風の絵画様式の展開についても研究が進み,その実態が浮き彫りにされてきた(「宋紫石とその時代〜中国渡来の写生画法〜」板橋区立美術館1986年4月,今橋理子「宋紫石試論ー南頻流継承と離脱の様相ー」『国華』1141号1990年12月)。もともと中国の絵画を規範とする文人画と異なり,浮世絵や花鳥画といった絵画にも中国の影響が積極的に認められるようになったことは,江戸時代の絵画を考える上で大きな意義をもつといえよう。大野智子-93 -

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