ーイスラム•ミニアチュールから近代西欧のプック。イラストレーションヘ一ので,とくにその晩年作品に焦点を当てたものである。この時期における彼の作風は,以前の風景,女性像静物といった社会意識に関わる現実性への拘束を離れ,一層現代的な形式手段を活用した表現主義的傾向を示している。こういった特殊な事態に注目し,その様式に関わる考察を深める研究を行うことで,彼の作品に対する再評価が可能になると思われる。⑫ 「アラビアン。ナイト(千一夜物語)」及び「ルバイヤート」の挿絵史研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士課程小林一枝文学史においても作者不明の奇書「千夜一夜物語」の系譜は,物語の起源すら様々な異説があり,全容が明らかにされていない。ましてやそのテキストに付された挿絵に関しては全く研究がなされていないのが実状である。同様に,フィッツジェラルドの名訳で知られるオマル・ハイヤームの「ルバイヤート(四行詩)」の挿絵についても専門的な研究はなされていない。しかし,申請者が既に明確な形成と伝播の過程を示した「カリーラとディムナ」本の挿絵のように,「千夜一夜物語」及び「ルバイヤート」にも写本挿絵の系譜が実証できると考えられる。申請者は以下の手順により,今回の調査を進めていく予定である。①アラビア(ペルシア)文学史上著名な作品を実地調査によってそこに挿絵が付されているか確認をする。②これら二作品の欧米諸語への翻訳史を再検討し完全な書誌を作成する。③出来上がった書誌に基づいてその挿絵を実地に調査し,挿絵史を明らかにする。④テキストが欧米諸語に翻訳された時点で挿絵も共に移植された事実はないか確認し,近代西洋のブック・イラストレーションとイスラム・ミニアチュールの影響関係を考察する。従来,本の挿絵という事で見過ごされてきた東西の文化交渉を,誰もが知っている「千夜一夜物語」「ルバイヤート」というテキストの挿絵を基に再考してみる事は,大変意義深い事であると思われる。-101-
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