鹿島美術研究 年報第10号
137/142

@ 垂迩画の研究一宮曼荼羅を中心に一に極端である。蓄積された日本の図像研究の成果を無視するものである。研究:九州大学文学部文部教官(助手)垂迩画とは,平安時代末期以来中世をつうじて描かれた,本地垂迩思想にもとづく宗教画である。垂迩曼荼羅とよばれる一群の礼拝画がその中心をなす。その中で,神社の社頭の実景を荘厳化して描く,宮曼荼羅と称する一群の作品は,垂迩曼荼羅の特性をもっとも典型的に表現するものである。曼荼羅の現存作品数は百点ちかくにのぼり,中世絵画史のひとつの底流をなしている。風景描写を背景とする来迎図などの一連の浄土教絵画とともに,宮曼荼羅は,宗教画における中世の風景表現の展開の重要な場であった。とりわけ荘厳された実景を描く風景表現のあり方が,宮曼荼羅のしめる独自のすぐれた領域であり,その特質についての研究が,中世絵画史研究に資するところは大きいと考える。本研究は,この宮曼荼羅を主な対象としてとりあげ,その風景表現の特質について考えようとするものである。これまでの中世絵画史研究において,垂迩曼荼羅は仏教絵画の一傍流として扱われてきた感がつよく,個別作品研究にもとづいた体系的な研究は,大きくたち遅れていると言わざるをえない。そうした実情をふまえ,本研究では,作品の実際の調査と,関係する文献史料よりえられた知見をもとに,宮曼荼羅の風景表現の特質を明らかにすることを目的とする。それと関連して,中世の絵仏師・絵師の動向についても考察をおこない,中世絵画史研究の一助としていきたい。行徳真一郎-107

元のページ  ../index.html#137

このブックを見る