研究報告者の報告要旨:① 「宋代における頂相と肖像」報告者:東京芸術大学助教授海老根聰郎概要:禅僧の肖像画である頂相は,日本にのみ遺存する宋代絵画の重要な一部をなしている。その実体の解明は遺品の少ない中国肖像画,その影響をうけた日本中世肖像画の研究にとって必要なことと考えられる。しかし,従来の頂相研究は,それを禅宗美術の枠内に閉じ込めて行われてきたように思われる。この報告は,頂相把握のこのような枠組みをとりはらい,中国肖像画の流れの中でとらえなおすことをめざしている。従ってそれは,宋代肖像画研究でもある。かつて内藤湖南は,日本の鎌倉時代の肖像画を論じた古典的論文の中で,中国肖像画の頂点は唐代にあり,以後は衰退の道をたどったと述べている。しかし,唐宋の社会変革に連動して,宋代の肖像画は,その製作の目的,機能,考え方,表現などの様々な側面で,前代とは相違した変革が認められる。頂相もそのような変動の中で生み出された。発表の概略は以下のとおりである。1.頂相研究の枠組みについて② 「絵画イメージの形成とパトロネイジー17世紀セビーリャ派絵画の聖女像をめぐって」報告者:大阪大学大学院博士課程岡田裕成概要:セビーリャ派絵画の17世紀は,ムリーリョに先導された盛期バロック様式の到来という革新の時代であったと同時に,パトロネイジの形態に重要な変化が現れた時代でもあった。この発表では,世紀前半と後半のセビーリャの代表的な画家,スルバランとムリーリョを中心に聖女像のタイプの変遷を検討しつつ,絵画をめぐる社会的な枠2.宋代以前の肖像画3.宋代肖像画の変革とその実体4.ふたたび頂相について-16 -
元のページ ../index.html#36