鹿島美術研究 年報第10号
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(1) 外国人研究者招致1.平成4年度「美術に関する国際交流の援助」① 狩野派を中心とする模本および下図の研究招致研究者:プリンストン大学美術・考古学科教授清水義明日本絵画史に於いて,最終段階の仕上げの作品が出来る迄の過程で,手本,下絵,粉本等と呼ばれる種々の絵画作品が重要な役割をはたしていた事は広く知られているが,集合的にそのような下絵を絵画制作過程の一段階として,作画活動の全体にとってどの様な意義があるのか,突っ込んで研究された例は未だ聞いていない。近年東京国立博物館の資料館所蔵の江戸末期の狩野派の画家達による江戸城障壁画下絵なるものが特別展覧会で紹介され,数百ページの細かいデータを発表した報告書と図版が東京国立博物館から出版された。この下絵は264巻の巻物に収められて居る大画面の障壁画の為の下絵であり,ミニアチュアである。今回の東京中心の研究と調査は,この下絵類の報告書を通読し,代表的な数巻の下絵を選び,それをスライドに撮り,計画的に準備された狩野派の画家による下絵のサンプルとしてそれ等を検討することから体的に始まった。江戸末期の資料だとは言え,これら下絵の作者は狩野家の当時(1839-1845頃)の棟梁晴川院善信とその弟子たちであり,狩野派に代々伝承された様式と画題の選択が裏にある事は明らかである。対象とした下絵(実物調査の対象となったもの)は下記の通りである(12巻全てをスライドに撮影した。)。ー,本丸,表,大広間,二の間,鶴,松図。上記と同じ部屋の障壁画の下絵で,大きなサイズで水墨調に描いた下絵1巻。本丸,表,大広間,四の間,鶴,松,滝図。本丸,表,大広間,上段の間,梅,竹,松,鶴図。本丸,表,白書院,上段の間,帝鑑図。同,下段の間,帝鑑図。本丸,表,黒書院,入側,漢画様式の長押上の貼絵。西の丸,表,大広間,上段の間(草稿)鶴,松,竹図。西の丸,表,大広間,下段の間(草稿)鶴,松竹図。-23-

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