多くの作家は古めかしい手法の束縛から解放され,新しい手段やテーゼを編み出しています。一部の若手作家は『先生』からでなく,大衆文化からイメージを流用しています。こうした日常の世界からイメージを引きだし,マルセル・デュシャンの弟子であるかのごとく,新旧内外のものを区別なく扱っています。微かに政治的主張の見られるプロジェクトもありますが,1950年代後半に貨幣と価値に対して挑戦的な考察を行った赤瀬川原平や,演劇の意味を問い詰めた寺山修司の街頭でのパフォーマンスと比べると大半の作品は抑制されているように思われます。あれから数十年もの間,驚くほどの豊さとチャンスに恵まれて軟化した今日の世代は,あくどさを増すどころか,現状維持型に見えます。」今回の日本での研修の成果発表の場として,当館はロンドン女史に「ハラ・ドキュメンツ」展の企画を依頼した。「ハラ・ドキュメンツ」展とは,日本の若手作家を紹介する目的で当館賛助会員の協賛により年に2回開催される展覧会である。女史に相当していただいたのは昨秋の「福田美蘭」展に続くシリーズ第2回目であった。さまざまな調査,研究の結果「アイディアル・コピー」という作家集団をロンドン女史は選出した。以下に「アイディアル・コピー」についての女史のコメントを紹介する。「『ハラ・ドキュメンツ』展に,私はアイデアル・コピーという,連帯責任に基づいて設立された,どことなく日本企業のような団体を選びました。メンバーは匿名でそれぞれの仕事で成功している傍ら,全て『チャンネル』という言葉で始まるコンセプチュアルなプロジェクトを通じて『芸術』や『日用品』,『オリジナリティ』の意味を探っています。そしてテレビを見たり,チャンネルを変えたり,番組を付けたり消したりすることに明け暮れるといったありふれた光景の中で人々がどのように生活をいとなむのかに関心を抱いています。溢れるほど大量の通俗的な情報や急速に普及し商品化される文化こそが興味の中心なのです。アイディアル・コピーは5年前から使い捨てカメラやトランプなどの日用品を取り上げ,引用が氾濫し,複製が難なくできてしまうこの時代において,芸術家と美術収集家の役割とは何であるかを検討してきました。個々の主張や作品よりもプロセスを重視したプロジェクトは,既存の「消費者」ネットワークを移動し,企画ごとに参加メンバーや素材,展示空間の種類が異なっています。原美術館で私たちはアイデアル・コピーの『Ch; Exchange』を発表しました。この_ 27
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