主題は『人間を魅了し,時には狂気に陥れる』貨幣です。貨幣とは信用という捉えにくい概念に基づいて,有形の物質がメタフィジカルな変身を遂げ,ある地域杜会において人々に共通の価値を持つようになったものです。この新しい企画は,どこにでもあるコインを通じて価値体系や史上について探求します。日常生活の一部となっているこれらの金属の小片は,もともと使用されている領域外では全く価値を失ってしまいます。例えば,海外旅行で余った外国硬貨は厄介なものです。私が『Ch; Exchange』に興味を持ったのは,それが世界全体が経済の一層の国際化に向かっている1990年代という過渡期を特徴づけているように思われたからです。地球の反対側に数時間で到着することができ,デジタル・テクノロジーによってどこへでも瞬時に確実な交信が可能となった冷戦終結後の今,東対西といった古い観念は意味がなくなりました。今日の文化は国際性と地域性,人工と自然の混合物なのです。」研修の最後,当館スタッフと懇談した際ロンドン女史は次のように語った。「私たちの国際都市には相違点よりも類似点の方が多くなり,文化交流がよりよい理解の普及のため重要な役割を果たしています。いま,日本人の若手作家によって力強い作品が作られ,また日本で美術館の建設が増えているなか,美術館の専門家がグローバルな交流をもっと行う必要があります。これは,展覧会においてキュレーターたちが共同作業をすることで可能となります。また西洋のキュレーターが日本で仕事をすることや,日本のキュレーターが海外で活動することでもできます。文化交流の架け橋はすでに出来上がっているし,大変な可能性が有ります。また,世界の他の地域の美術作品を含むテーマ性のあるグループ展をもっと展開させればより生産的になるでしょう。今は,活動場所の違う芸術家たちが似たような問題を意識している様を観察する時です。そうすることでより認識が深まることでしょう。」バーバラ・ロンドン女史はビデオアートを早い時期から芸術の一分野として取り上げた世界でも有数の研究家のひとりである。また,以前よりわが国に興味を持ち何度も来日を重ね,日本の現代美術の状況等を調査,研究してきた。今回の来日は,女史にとって初めてのまとまった期間の滞在であり,女史は国内各地を積極的に訪問した。女史の来日そして各地への訪問は,彼女自身の研究においてばかりでなく,交流の機会を持った日本の美術関係者,作家たちにとっても強い刺激となったと聞いている。「アイディアル・コピー」のプロジェクト『Ch; Exchange』は,原美術館での公開の後,今秋,ニューヨークのニュー・ミュージアムで展覧会開催が決定した。さらに秋-28-
元のページ ../index.html#52