鹿島美術研究 年報第10号
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またブライソン,カーナー,ライヤーバーカート,および日本彫刻のジョン・ローゼンフィールド,中国絵画のウー・ホン,ルネサンス絵画のジョン・シェアマンの各氏とは,それぞれ個人的にも話し合う機会を得た。なかでも,プライソン氏の講義および氏との話し合いから得たものが,私にとってはきわめて大きかったことを特記しておきたい。ハーヴァードで学ぶ大学院生たちとの会話も,興味深いものであった。ハーヴァード以外の上記4大学訪問の際には,招待講演の企画者であるグレービル氏をはじめとする諸氏と個人的に話し合うのみならず,アフリカ美術のローランド・アビオドン,フェミニズム研究所にも所属して現代美術の研究をするナターシャ・スターラー,ルネサンス美術のカオリ・キタオの各氏をはじめ,多くの美術史学研究者や大学院生たちと,美術史学の方法について話し合う機会を得た。またイェール大学をプロック氏とともに訪問した際には,ミミ・イェンプルクサワン氏と美術史学の諸問題について話し合った。作品調査を行なった美術館は,ハーヴァード大学サクラー美術館(ケンプリッジ),ボストン美術館(ボストン),サクラー美術館(ワシントンD.C.),メトロボリタン美術館(ニューヨーク),バーク・コレクション(ニューヨーク),イェール大学附属美術館(ニューヘブン),その他であり,ハーヴァード大学サクラー美術館のフミコ・クランストン,ボストン美術館のアン・モース,ワシントンD.C.にあるサクラー美術館のアン・ヨネムラ,メトロボリタン美術館の大西廣をはじめとする美術館学芸員諸氏とも,これまでの日本美術史研究が持っていた問題点について話し合った。作品を前にした話し合いが,会話を実り多いものにしてくれたようであった。今回の研究は,当初,日本美術史の方法論について考えることを目的としていた。つまり,日本美術史の研究は,明治以来,西洋近代美術史学に導かれながら進展してきたが,それは現在,ある意味で行き詰まっているように思われる。その理由は,西洋近代美術史学の価値観と方法論が,もともと日本美術史の研究に合わなかったからではない力~_,という問題意識が,私の出発点であった。しかし上記のような活動を行う過程で,問題は,日本美術史という狭い枠内のみにあるのではないことが認識されるようになった。そこで,以後はむしろ積極的に,日本以外の美術史を研究する人々と話し合うことを心がけた。私の方から,日本における日本美術史研究の現状を話し,相手からは,その研究者各人の専門分野における状況を話してもらう,という順序で話し合うことが多かった。そのようにしてさまざまに考察を重ねた結果,現在35

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