の美術史学の状況について,次のような認識を持つに至った。従来の美術史学の言説(ディスコース)は,決して「客観的」「普遍的」なものではなかった。それは,「性差(ジェンダー),人種または民族(レイス),階級(クラス)」という3つの観点から批判的に検討すると,明らかに,「男性性,白人,中産階級」を偏重し,他を貶めるという価値観に基づくものであった。現在,世界中の価値観が大きく変動し,従来の偏った価値観に基づく各分野の学問的言説が厳しく問い直されている中にあって,美術史学もまた,厳しく自己点検を行なう必要に迫られている。従来の日本美術史研究は,世界のこうした動向の外にあったと言わざるを得ないが,今後は,アフリカ美術やアジア美術など,従来の価値観からは「周縁」化されてきた諸地域の美術史を研究する人々と協力し,新たな視点から研究を行なっていく必要がある。世界の各地域の美術史学の動きと連動しながら,新しい日本美術史の言説を創造することが,今後の研究者の課題であるように思われる。-36 -
元のページ ../index.html#60