した説明は必要であるが,彼らにはわからないであろうと最初から決めてかかったり,あるいは西欧の価値基準に合う作品ばかりを選ぶことは,われわれが取るべき正しい道ではない。その意味で,林氏の発表は日本の美術が文学と密接な関係に結ばれている事実を,わかりやすい英語で具体的に指摘したものであった。セッション終了後,私は2,3のヨーロッパ人研究者に尋ねてみたが,大変よく理解できたとのことであった。林氏の発表は,今後の日本美術研究者が模範とすべきものであったように思われる。そして,この国際美術史学会のような国際会議こそ,そのためにもっともふさわしい場であるにちがいないのである。ベルリン東洋美術館およびギメ美術館において調査した日本美術品のうち,もっとも興味深く思われたのは,後者の所蔵になる「書物図屏風」六曲一隻であった。これは最近平山郁夫基金により購入された作品で,紙本金地に着色をもって机,几帳,物などが描かれている。私見によれば,寛永期の作と見て不可なかるべく,画風は優美にして品格高く,非常にすぐれた出来栄えを示している。もちろん落款はなく,画家を特定することはできないが,確かな画技をもつ町絵師の一つであったと思われる。書物を主題とすることは,朝鮮において愛好された画題であるが,本屏風にあっては,華やかな表紙を装飾的に表現することに主眼が置かれている。屏風の枠には「豊公伝来紋入誰ヶ袖片隻」と書かれた別紙が貼られているが,いわゆる桃山百双屏風に擬定されたことを示すだけであって,これ自体にあまり意味はない。なお,これとよく似た主題と画風を示す六曲一隻屏風が別に所蔵されているが,本来一双のものではないように思われる。もちろん,このほかにも近世絵画史上見逃すことができない作品が少なくなかった。-42 -
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