鹿島美術研究 年報第10号
68/142

1-2-1 第1テーマ「作品への誘い」1-2-2 第2テーマ「街と美術館とワークショップ」北海道近代美術館の奥岡茂雄氏と,ハノーヴァー/シュプリンゲル美術館のウド・リーベルト氏とがそれぞれの美術館の作品鑑賞を中心とし,スライドを用いて教育的実践を総括的に報告した。奥岡氏は,「子どもと親の美術館」や「サマー・ミュージアム」の活動を中心に,開館15周年を迎える同館が早くから取り組んできた,日本における先駆的な活動を報告。他方リーベルト氏は,「芸術遊び」や「触る美術展」等多様な活動と,それを貰く,すべての人々が自分自身で近・現代美術を味わう力を培うという,ボイスにも通じる館や三重県美術館のコンセプトの紹介をも交えながら,日独双方の共通点と差異が確認されていった。世田谷美術館の高橋直裕氏と,ミュンヘン/ペダゴーギッシェ・アクツィオーンのヴォルフガング・ツァハリアス氏とが,それぞれの立場のワークショップ活動をスライドを用いて紹介した。高橋氏は,日本の美術館教育が,現在,技術指導型から体験型への変化を示しながら,さらによりよいワークショップの在り方を模索する過渡期にあることを確認したうえで,美術館内のオリエンティーリング,コミュニケーション・プロセスを重視した制作ワークショップ,また大人を対象とした「廃品拾いワークショップ」等,同館の多彩な活動を紹介した。この報告に対し,特にその「廃品拾いワークショップ」や山中のオプジェ「児玉」制作ワークショップは,美術館が美術館を忘れずに美術館を越えていくという点で,またプロと競合することなく一般の人が現代美術に取り組みく自然一人間>のかかわりを回復していき,さらには都市についての自覚を呼び起こすプロジェクトとして注目を集めた。ツァハリアス氏は,街自体が美術館化する今日の事態を批判しつつ,街の生活と美術館の相互作用・美術館の公共的関係の重要性を説く。そこでは,ワークショップは美術館と周囲とを結び付ける活動でもあるとされる。①学習の場としての美術館,②生きた文化活動の空間としての美術館,③美術館の枠を越えること,④街のミュージアム化を転換することといった課題に向けて,今,世界の美術館がそのパラダイムを大きく換えようとしていると指摘。その上で,<青少年のための文化フォーラム/ミュンヘン>,そしてペダゴーギッシェ・アクツィオーンの活動を紹介。その後の議論のなかで,このペダゴーギッシェ・アクツィオーンの活動はドイツのなかでも突出したしたコンセプトを明快に提示した。報告をうけて,宮城県美術44

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る