例であるが,しかし今や日本を含めた世界の課題方向を示すものであることが確認されていった。1-2-3 第3テーマ「美術館と学校」セゾン美術館の荻原佐和子氏と,ベルリン芸術大学のディートハルト・ケルプス氏が報告を行った。荻原氏は,セゾン美術館で昨年開催されたグッゲンハイム美術館名品展に際して東京都図画工作研究会等の協力をも得て取り組まれた「あそびじゅつ」のプロジェクトを紹介することによって,日本ではまだようやく緒についたばかりの,美術館一学校のリンケージの可能性を提示し,大きな賛同を呼んだ。議論では,学校美術教育固有の課題と可能性,あるいはまた企業美術館の限界等が指摘されたほか,この分野の先進国スウエーデンの例等が紹介された。ケルプス氏は,美術館と学校美術教育双方を含む現代の大状況を,①リスク社会,②経験のメディア化,③「現在」の縮小,④「未来」の植民地化としてとらえ,学校や美術館の根本的課題を,この状況に抵抗する力を授けるところに置かねばならないと主張。機能的合理性から,実質的合理性へとむかい,共同と希望の原理へと誘うことが重要であり,美術館も学校もそのような場となる必要があるとされた。議論において,この報告は,美術館教育の具体相に迫るディーテイルにやや乏しい点を補って,シンポジウム全体がたち戻るべき基本的枠組みを提示したものとして受け止められ,この大状況を自覚した美術館と学校の果敢な取り組みの重要性が確認された。1-2-4 第4テーマ「現代文化のなかの美術館教育」三軒茶屋における行動,「大道芸術展」の報告が,子供の遊びと街研究会の木下勇氏とツァハリアス氏によって報告され,ブリヂストン美術館および東京国立博物館における<ギャラリー・トーク>が東京学芸大学教授の水田徹氏とリーベルト氏によって報告された。後者に関してはさらに,千葉大学研究生の蔵屋美香氏によって補足報告が行われた。これらを踏まえて,総括的議論が行われたが,まず及部克人氏は,①人と人のつながりをつけることの重要性,②生活者の立場を理解することから出発することの重要性,③理論化の重要性が指摘された。リーベルト氏は,学際的能力を持った学芸員が,様々な人や組織とパートナーとなることの重要性,また美的感覚を研ぎすますことを課題としている美術館の,博物館一般に解消できない特質が指摘された。竹内順一氏は,美術館教育の専門学芸員の登場が日本の課題となってきたと指摘。森本孝氏は,<-45 -
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