鹿島美術研究 年報第10号
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ギャラリー・トーク>に関する大学と美術館のリンケージを歓迎。ケルプス氏は,①誰がある対象を美術とみなすのか,その判断基準から問われる必要があること。②美術館に限定しない博物館という広がりの重要性,③展示作品のみならず,寧ろそれと人間,そして人間同士の対話的関係の重要性を指摘した。木下勇氏は,子どもが自分の内発的なものに自信の持てない「感覚のメディア化」状況を克服するための,身体を動かすことの重要性を強調。ツァハリアス氏は,美術教育とは異なるテーマを有した美術館教育固有の課題の自覚,特に,そのための職業人の養成の重要性を指摘。水田徹氏は,ワーク・シートの限界と可能性,学校教育における美術教育の重視,芸術家を視野にいれることの重要性を再確認した。さらに会場から,ヴィジュアル・コミュニケーションとしての美術館教育をと説く民族学博物館の森田恒之氏を始め幾つかの重要な議論が追加された。以上,必ずしも明確な結論は出ないが,課題が確認され,多くの論点が提示されたことをもって,今シンポジウムの課題は果たしたと判断されて閉幕した。① ドイツの美術館教育の理論と実践の諸成果に触れ,多くの刺激を得た。特に,実践が,深い文化理論・感性/芸術理論・教育理論に支えられている事は,日本の大いに学ばねばならない点であることが明らかになったと言えよう。② 日本各地で試行されてきた美術館教育の蓄積,交流の大規模な場が,初めて成立した。③ 美術館,学校,地域,大学等,場と立場を異にする多様な人々が同席し,論じあう点でも,かつて無い試みとなった。④ 6月に横浜で開かれた同種のシンポジウムともあいまって,美術館教育の研究・実践の新しい時代を開始する上で一助となった。⑤ 既に,DOME誌第4号等によって特集され,新しい議論の起点となっている。2 成果-46 -

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