鹿島美術研究 年報第10号
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ーズ号の保存の研究であった。すなわち,海底から引き揚げて復元した後水潰け状態にあった木造の船体を,微生物等の劣化を最小限に止めるために,560このノズルから2 ■ 5℃の冷水をスプレーして可能な限りの現状保存に努めている。その維持管理費は可成の高額になるが,薬剤の使用を避けて安全性の高い方法としてこの低温保存法を採用し,10年以上本艦を維持している報告であった。中村康氏らは,我が国の重要文化財に指定されている木造彫刻が,合成樹脂プチラールを用いて修理した後にカビの発生する2つの現象について報告した。すなわち,その1つは,劣化した木部の接,充堰に用いたプチラール樹脂に溶解・抽出されて樹脂表面に集梢した糖及びアミノ酸が養分供給源となるので,ブチラール樹脂に防徽剤サイアベンダゾールを加えての防止,他の1つは,収蔵・展示施設内の相対湿度が1年のうち10か月間80%RH前後となるため,修復後の木造彫刻にカビが発生することを解明し,除湿機を設置して70%RH以下にしてカビの防除対策を講じた報告であった。韓国の金益柱氏は,新安の木浦沖から発掘した貿易船の水潰木材について,化学的・微細形態学的な変化を報した。除に,マイクロウェープで55■65℃に8分間加熱すると,100%駆除が可能となる報告を行った。薬剤を使わずに加害虫を防除する方法の一つであった。英国のL.ヒリヤー氏の報告は,ビクトリヤ&アルバート博物館が,染織品を加害するカツオブシムシの防除対策として,可能な限り低毒性の方法を実施したものであった。すなわち,撒底した清掃,館内のペルメトリン処理,加害虫の生息する染織品には冷凍法で一30℃に72時間処理したとき,供試したコイガとヒメマルカツオブシムシ数種は,100%致死効果が認められていた。インドのN.ニガム氏らは,不完全菌類のクリソスポリウムにケラチン分解能の認められることを報告した。ついて,宇田川竜男氏が鳥害としてドバト及びキッツキ,獣害としてコウモリとサルの実例をあげ,ドバト及びコウモリは,建造物の近くにそれぞれの特設小屋を設置して,これら鳥獣害の適切な防除法を示し,参加者から強い関心が寄せられた。あたり,紙質に影響を与えない線量にまで有効照射線量を下げることを検討し,熱とy線照射との相乗効果の利用を報告した。ブラジルのS.M.オッタチ氏らは,図書館に(5) 染織品:フランスのD.レイヤー氏が,動物性繊維製品を加害するコイガの防(6) 虫・鳥獣害:インドのマトール氏が博物館で採集されるムシとその防除法に(7) 書籍:チェコスロバキアのP.ユスタ氏が,古文書の滅菌にy線を応用するに-48 -

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