る褐色物質と報告している。今回は,エジプトのッタンカーメン王墓の壁画面に発生した褐色斑点や貯蔵中の絹糸に発生する黄〜褐色の斑点からも同種のカビ(絶対好桐性カビ)が分離されたので,この種類のカビが発生する条件にある材質には,褐色斑点(フォクシング)が発生するとの考えを提出した。松尾勝•井上千穂氏らは,y-アミノ酪酸とグルコースで合成した人工褐色物質を分解する微生物を検索して,白色腐朽菌のなかに効率よく脱色する菌株を見出したことを報告した。これは,生物化学的な手段を導入して,材質に影闊を与えずにフォクシングを修復し得る可能性を示唆するものであった。このセッションの発表については,発表者間での試料の交換やドイツの大学でフオクシング形成のメカニズムの図やデフォクシング微生物の検索の表を講義に使いたいとの申し出があり,活発な研究交流が行われた。(10) 防除法(i)環境制御:中国の陳元生氏が,ナトリウム・モンモリロナイトとケイ酸ナトリウムから湿度調節剤を合成して,これをBentoniteMuseum Chemicals (以後BMCと略記)調湿剤と命名した。本剤は,40■70%RHの範囲で高い水分含有能を有し,湿度の変動に敏速に応答する良好な湿度調節剤である。中国の上海博物館では,中国絵画の展示ケースに,BMC調湿剤を5kg/m3の割合で配置したとき,その展示ケースの相対湿度は,4か月間65土5%RHを保持できたことを報告した。中村一紀氏らは,宮内庁書陵部が自然空調システムを採用した新設の書庫で自然換気に工夫を加え,窓に取り付ける除塵・調湿ハニカムボードを開発し,さらにOSライトを応用した耐火・調湿ケース内の環境の安定性を計測して,その利用の可能性を追求したユニークな研究を発表した。伊達泰宗氏は,伊達家墳墓から出土した太刀や蒔絵文箱などの遺物を,埋蔵時と同じ95%RH以上の高湿度環境下で保存する方法を10年間にわたって研究・観察を続け,従来のホルマリンの使用を止め,エチルアルコール処理で良好な結果が得られていることを報告した。米国のS.マエカワ氏らは,エジプトのミイラの保存に端を発する研究で,展示空間を不活性雰囲気に保ち,かつ調湿剤による湿度の調節,ベローズによる気圧の調節機能を備えた有機質文化財の保存展示ケースについて報告した。または窒素とアルゴンガスの燻蒸法による害虫駆除の効果を,さらにオーストラリア(現在米国)のM.ギルバーグ氏らが酸素吸収剤エージレスを用いた不活性ガスによる害虫駆除,ドイツのA.ウンガー氏らが窒素燻蒸による木造彫刻や絵画の昆虫駆除を報(11) 防除法(ii)燻蒸法:米国のG.ハンロン氏ら及びR.J.ケスラー氏が窒素酸欠-50-
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