鹿島美術研究 年報第10号
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から十六世紀という時期にかけて特色ある展開をみせたとされる花鳥図のジャンルに焦点を当て,やまと絵の流れをその視野のうちにいれながら,これを見ようとする旨の報告をした。絵画の分野では,村瀬教授が「浜松図屏風」,タケウチ教授が「十六世紀の洛中洛外図」,スタッブス教授が「近江名所図」,ブロック教授が「実隆公記と絵巻物の制作」に関する研究発表をされるなど,その話題や関心の中心は,もっぱら,やまと絵に係わるものであった。従来,室町時代の絵画といえば水墨画などによる唐絵ないしは漢画主題の作品が研究上の対象となる場合の多かったことに対し,それとは別の視点により新らしい局面をひらこうとするものであり,そこに,この展覧会やシンポジウムの企画を計画されたクリーブランド美術館東洋美術部長・マイケル・カニンガム氏の意図もあったものと思われる。このことは,すでに近年,日本においてもしばしば論及されるところとなっているが,その傾向に対するすばやい対応といえる。漆芸,陶磁の発表においても,フォード女史の「蒔絵にみる文学意匠」,コート女史の「東南アジアの陶器と日本の美学」,ウィルソン教授の「十六世紀の京都からの遺産」など,いずれも,美術における日本的特質とは何かということを問うものであった。最後に,ハーバード大学のジョン・ローゼンフィールド教授が,パブリック・レクチュアーの形式で,全体の総括的な意味あいにおいて,これをまとめられ,この展覧会の開催の主旨を広く聴衆に理解されることが計られるなど,このシンポジウムの企画は,ほぼ成功裡に終ったものと思われる。アメリカ側の研究者の発表のなかには,日本人研究者たちの間に,これまで持ち合せることのなかった研究方法などもみられ学ぶところも少くなかった。総じて今回のシンポジウムは,アメリカにおける日本美術に対する現在の関心や研究の動向を一面においてよく示すものであったといえる。公開で行われ130名を超える出席者を数えたこの会議には,研究者はもとより,コレクターや美術愛好家たちも多く参加していたが,何よりも大学院レベルで日本美術史を勉強している若い米国人研究者たちが,教授の引率で出席し,熱心に聴講していたのが印象的であった。これらの学生のうち博士課程に在籍し,博士論文提出資格を持つ者に対しては,美術館が特別に経済的なサポートを与えており,シンポジウム終了の翌日には,休館日であることを利用し,じっくりと時間をかけて展示作品の見学調査を行い,またさまざまな討議の出来る機会も作られるなどの配慮がなされていた。63 -

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