(4) 第9回研究報告会本年度の研究報告会は,平成5年5月18日午後2時より,平成5年度の美術に関する調査研究の助成金贈呈式に引き続いて開催され,川本桂子,鶴岡真弓,梶谷亮治,潮江宏三の四氏が下記要旨の研究報告を行い,約130名が聴講した。研究報告者の報告要旨:① 桃山時代絵画史の再検討ー一永徳による新様の金碧障壁画の成立とその位置付け報告者:北海道教育大学非常勤講師川本桂子は,それまでの絵画が目指してきた空間表現とは,まったく異なる空間表現を試みている。すなわち,永徳以前の絵画が,絵画面の内部に奥行のある三次元空間を構築しようとしたのに対し,永徳は,室内空間の内側に向けて絵画モチーフが飛び出してくるようなかたちの三次元空間をつくろうと意図したのである。画面の中に作られた奥深い空間は,観者の視線と心の動きを絵画の中に誘い,観者を心地よく絵画の中に引き込もうとするが,永徳の新様では絵画空間がそれの描かれた部屋の現実空間(観者の立つ実存空間)と連続あるいは一体化し,描かれたモチーフの方から,積極的に観者の視覚に飛び込んでくる。モチーフの巨大化や金地金雲による背景の遮断はこうした空間表現を生み出すための手段にほかならない。ただ,この特異な表現が生み出される契機を,永徳個人の資質や時代の風潮だけに求めるのではあまりにも抽象的すぎる。そうでなくて,絵画の変質を促すような何らかの具体的な要因を考えようというのが私の立場である。今回の研究報告では,まず,永徳によるこの新様の絵画の誕生が,秀吉によって造桃山絵画史における重要なテーマの一つは,伝永徳の「檜図」や「唐獅子図」に見るような,金碧の大画面に巨大なモチーフを粗豪な筆致で描いた新様の障壁面が,いつどのようにして成立したかということである。この永徳の新様の絵画は,単に旧来の花鳥画のモチーフの整理や,核となる景物の巨大化,画面の完全金碧化だけで成立するものではない。ここで永徳-14 -
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