② 長谷川雪旦研究研究者:山口大学教育学部助教授影山純夫その作品がきわめて高い芸術的価値を持つ絵師だけが,絵画史上重要な絵師なのではない。彼らは絵画史上の頂点に位置する絵師ではあるが,彼らを様々な意味で支える多くの絵師がいる。そういった絵師を無視しては,絵画史の実相は必ずしも明らかにはならないと考えられる。本研究の対象とする雪旦も,超一流の絵師というわけではないが,まさに時代の絵師として,江戸時代後期の絵画状況を示す興味深い絵師と捉えることができる。本研究の最終的な目的も,この時代の絵画史の把握にあるが,その前段階の目的として雪旦の履歴解明,雪旦作品の全体像の把握といったものがある。現段階で調査を終えている雪旦のわずかな作品からでも,歌川広重作品との影響関係,狩野養信作品との空間感覚の近似といったものがおぼろげながらわかってきており,詳しい調査と比較研究は,この時代の絵画史の興味深い側面を明らかにすることになるであろう。そしてその成果は,近年問題とされている美術史上の近代時代区分を考える上でも役立つと考えられる。③ フランス15世紀前半の透明釉七宝工芸研究者:東京大学大学院人文科学研究科博士課程ゴシック期フランスの写本装飾をより深く理解する為には,相互の影響関係にあった装飾美術の中でも七宝工芸との関係を考察する事は重要である。七宝工芸が高価な素材を用いて,その豪華さ,色彩効果,装飾性において写本装飾に影響を及ぼし,写本挿絵は七宝に直接・間接に図像を提供している点を考慮すると,画家と金工が密接な交流関係にあったことは容易に推測されるからである。ところが,パリが中心的な生産地となる13世紀末以降シャルル五世(1364-1380)の治世迄に制作された七宝工芸品に関しては,様式別の分類,同時代の画家との関係等が比較的系統的に研究されているのに対し,それ以降の作品に関しては,未紹介のものも少なくなく,一部が大まかな制作地と年代を推定されているのみで,総合的な研究は今だなされていない。僅かな現存作品が各地に散在していることが,網羅的な研究の障害の一つであった点は否定できない。しかしながら,15世紀の写本を対象と岩三恵-38 -
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