⑥ 九州の中世禅宗美術ー大応派の美術一研究者:福岡市博物館学芸員渡邊雄—禅宗文化の多くは文献(古文書,詩文,語録等)のほかは頂相(肖像画),水墨画,建築などtypicalな部分で語られた。したがって,そうした遺品の少い九州の禅宗関係の文化は語られることが稀れであった。今回九州の禅宗関係の美術資料を総合的に調査し,九州の禅宗文化の姿を見出したい。そのためには禅宗寺院に祀られる仏像ほか彫刻,工芸品を含め,絵画,墨蹟も余すところなく検討することが必要であろう。博多妙楽寺に蔵されていた虚堂智愚の「虚丘十詠とその跛文」のように分断されて,今日全国に散在するものもあり,ときに調査が広範囲になることも予測される。また,九州の主な禅宗寺院は今日修業寺として一般には門戸を閉じたところも多く,調査が行きとどいていない場合も多い。このような状況であるが,この機会に南浦紹明以下大応派の僧が住した寺院を調査し,九州の禅宗文化の重要な一面を明らかにし,そこに一つの完結した文化を見出すことができれば,新たな日本文化の側面を発見できるであろう。なお,大応派は広く南浦紹明の派下であるが,今回の調査では,その開靱に南浦紹明あるいは中世の大応派の僧が係った寺院を中心とする。それは十方住持制を基本とした中世の五山制度にあって,大応派の寺院は法系を守ったため調査対象を絞りやすいこと,また,南浦紹明以来,当地での歴史,広がりをたどりやすく,今後九州の他派の発展を考察する際のモデルとなると考えるためである。⑦ 美術館における修復保存セクションの役割研究者:国立西洋美術館学芸課主任研究官河口公生美術館に於ける修復保存部門の役割を明らかにし,体制作りを実現する事は決して現実からかけ離れたものではない。まず西洋美術館にその新しい性格を持ったアトリ工組織に,科学調査や研究が出来る設備が整備されることとなった。その結果として,①修復技術の質の向上,②保存科学調査研究の機能設置,③情報資料の蓄積,④後続の育成が見込まれる。ここで求められるのは,システム作りであろう。この研究は必ず大きな柱となる機能を果たすであろう。-41 _
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