鹿島美術研究 年報第11号
71/108

けることができる。大きな視点では,狩野正信をも含む初期狩野派の問題として構想しているが,当面の対象を絵巻物においているために,狩野元信の様式研究が主題となっている。しかし適宜狩野正信の作品についても考えてゆきたい。本研究の最大の目的は,端的にいえば,狩野元信をよりよく理解することにある。狩野元信は,「和漢の融合」として語られる新しい様式の形成,宗教的枠組みからの解放,職業画家としての自立,流派体制の確立などからみて,美術史の大きな流れの中で,文字通り中世から近世への転換点に位置する画家である。したがって,狩野元信の充分な理解は,狩野派の枠を越えて美術史の中で重要な意味をもつ。そして,本研究は,これまであまり検討されることのなかった狩野元信の絵巻物制作に焦点を絞り,そこから元信の様式展開を考え,「元信様式」の絵巻物を総合的に捉えて,その結果として流派体制の確立について考察するという点で従来の研究にない意義があると考える。申請者は,絵巻物という表現形式そのものの持つ意味が中世から近世にかけて大きく変わっていったと考えているが,その「絵巻物の変容」に狩野元信の絵巻物制作が果たした役割は大きく,また,「敷き写し」可能な絵巻物における忠実な模本制作のメカニズムの解明は,狩野派内部における様式の波及に大きな意味を持っていたと考えている。したがって,本研究の遂行によりこれらの点が明らかになれば,おのずから狩野元信の美術史上における位置も明確になってくると考える。⑩ 白馬会の研究研究者:石橋美術館学芸員植野健造日本近代美術史の流れを考えるうえで重要な意義をもつ明治期の洋画団体「白馬会」については,すでにこれまでにもいく人かの先学による研究成果がある。しかし,これまでの白馬会に関する研究は,同会に関係のあった黒田清輝や藤島武二などの個々の画家の作家研究のなかでいわば付随的におこなわれてきたか,または,日本近代美術史をあつかう通史的な研究書のなかで同会の活動の概略が記述されるにとどまってきた。近年,東京国立文化財研究所美術部第二研究室により白馬会展の出品目録が『美術研究』354号,355号に公刊されたことはこの分野の研究にとって有益であったが,それとても白馬会展の全出品内容を明らかにするものではない。さらに白馬会が日本近代美術史上に果した意義については,これからあらためて考察されるべき課題-43 _

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る