鹿島美術研究 年報第11号
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であるというのが研究史の現状といえる。このような研究史の現状をふまえ,本研究の目的は次のような3点に要約される。白馬会に関する網羅的,総合的な研究がおこなわれていない研究史の現状からみて,白馬会を中心テーマとした本研究の意義は少なくないと考える。また,白馬会に関する基礎資料の整理は,同会に関係した個々の作家研究にも資するものと考える。最終的には,白馬会の活動によってこそ日本洋画は近代美術として成立しえたということを,実証的に明らかにすることができるものと考える。⑪ 琳派草創期における紙師宗二の役割研究者:福岡市美術館学芸員都築悦従来,紙師宗二は本阿弥光悦の書状に紙の提供者として,あるいは茶会の同伴者として登場することで知られ,かつ鷹峰の光悦村の地図に「宗仁」と記される人物と同一人物であると考えられてきた。しかしその他の文献には宗二の名はまだ発見されておらず,光悦と親しく交わった人物であるという以上に,生涯の軌跡はあきらかではない。諸先学の研究によって,慶長年間に新たな様式の金銀泥絵を創作したのは,宗達であるとされている。しかし,実際に金銀泥の巻子本に落款印章を残しているのは,宗二である。宗二の印は,紙の継ぎ目に捺印されていることから,装潰をしたことは確実といえよう。またその印が金銀泥で捺印されていることからは,宗二が金銀泥絵に直接かかわったことは明白である。そこで,いままで宗達の補佐と考えられていた宗二の役割を,作品と文献から具体的に検証する必要があると思われる。宗達の初期作品と考えられている金銀泥絵の制作に深いかかわりを持つ「宗二」という人物,あるいは「紙師」という存在について検討することは,琳派草創期の姿をより具体的にするものであり,また,宗二の役割の範囲を明確にすることは,同時に宗達の果たした役割をあきらかにすることでもある。現在の状況では,紙師宗二に関する研究が,作品面でも文献の面からも十分に行な(1) 白馬会に関する基礎資料の収集整理。(2) 白馬会に関連する画家と作品の研究。(3) 白馬会の歴史的意義の考察。-44 -

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